駒崎 弘樹 公式ブログ 提言・解説・アイディア

リモートワークで重度障害者も働ける時代へ

 

障害者の就労支援施設である「テクノベース」に視察に。

 

就労支援B型事業所「テクノベース」はフレックスコントローラーでお馴染みの「テクノツール」さんがリタリコさんと合弁で作った会社。

 

テクノツールのフレックスコントローラーは四肢が動かない人でもゲームができたりドローンを飛ばせたりする、めちゃ優れものの装置。

(以前、動画でも紹介したので、興味ある方はこちらをご覧あれ)

 

テクノツールのコントローラーで重度の障害のある方々がゲームができるようになったり、デジタルツールにアクセスできるようになって「自由」を持てるようにはなったけど、「仕事」までには繋がりづらい。そこを何とかしたい、ということでテクノベースを立ち上げたそうだ。

 

入ると4人が作業をしていた。英訳している人、手書きの図面をCAD化している人などなど。それぞれデジタル関連作業を中心に、知的、精神障害等の方々が楽しそうな雰囲気で取り組まれていた。

 

しかしここで特徴的だったのが、リアルな作業場に加えて、バーチャルオフィスがあったことだ。大きなスクリーンには、もう一つのオフィスが映し出されている。

バーチャルオフィスの中では、リアルより多い10人の方々が働いていた。

千葉の袖ヶ浦からログインしている人もいるという。

 

これは良い。バーチャルオフィスを使ったリモートワークならば、移動が大変な重度の方や肢体不自由の方々も働けるではないか。

 

実際に、登録者18人中、9人が肢体不自由だと言う。この割合はなかなか無い。

 

この「デジタル作業ベースのリモートワーク」を全国に広げていけたら、これまで就労しづらかった、肢体不自由を始めとした全国の重度障害者の方々が就労と繋がるのでは。

 

と思ったが、そうは話は簡単ではない。

 

【立ちはだかる制度の壁】

 

就労支援作業所におけるリモートワーク勤務は既に国にも認められているのだが、「月1回の面接実施」はいまだにしないといけなくなっているそうだ。国は原則であって、利用者の居住している自治体が認めればしなくても良いと言っているそう。(このパターン、あるあるですよね)だけど、大体の自治体が原則を踏襲するので、結局はやらないといけなくなる。そうすると、全国の方々が作業所を利用する、と言うのは難しくなって、月に1回、スタッフの方々が面談に行ける範囲に限られてしまうのだ。

 

さらに、「重度訪問介護(重訪)は就労に使っちゃいけないよ謎ルール」もある。

重度障害のある方は、重度訪問介護(重訪)という制度を使って、ヘルパーさんに身の回りのことをサポートしてもらう。水を飲むのにも、人手が必要だからだ。この重訪、とっても便利な仕組みなんだけど、なぜか就労に使ってはいけない、とされている。時代背景的に、重度障害者の方々が働ける、というのは現実的ではなかったからだが、時代は変わっている。にも関わらず、重訪使う時は、就労しちゃいけないのだ。謎すぎる。

 

( 参考:ちなみに重訪は子どもも排除してる。「忘れられがちな、重度訪問介護のもう一つの論点」 https://note.com/komazaki/n/ndb57a9c86244   )

 

しかし世田谷区など一部の自治体は、地域生活支援事業というまた別の制度を使って、就労中もヘルパー利用が可能となっている。自治体がやる気出せばからめ手で乗り越えられる壁なのだが、なぜたまたま住んでいる場所によって働ける働けないを決められないといけないのか、という話だ。国が対応すべきだろう。

 

こうした制度の壁があるため、リモートワーク可能な作業所が増えていっても、じゃあ一歩踏み出そう、と思っても、壁に阻まれてしまう。

 

もちろん障害によっては重訪使わないで大丈夫な人もいたりするので、テクノベースさんのようなところは広がった方が良いが、そのポテンシャルを開放するには、制度改正をしていくべきなのは間違いない。

 

【インクルーシブ・テックを盛り上げたい】

 

スイッチコントローラーやバーチャルオフィス等の、「インクルーシブ・テック」にはものすごい可能性がある。労働人口が減り続ける日本において、これまで働けなかった人々に、働く機会を提供できるだけでも社会的に良いが、それだけではない。

 

障害のある方々に良いだけではなく、それは健康で健常な人々にとっても良いのだ。

 

よく言われる話だが、例えばライターは、戦争で片手を失った人でも火をつけられるように考案されたものだ。(諸説ある)

障害者にとって使いやすいものは、健常者にとっても便利なのだ。そして障害者向けに作られたことすら忘れられ、あたりまえのものになっていく。

 

カーディガンだって、半身不随の人がセーターは着づらいから、作られたものだそう。

 

マイノリティのためにデザインされたものは、マジョリティにも恩恵を与えるイノベーションになる可能性がある。(これをゆるスポの澤田さんは「マイノリティ・デザイン」と言っている)

 

インクルーシブ・テックもそうだ。視線入力装置があれば、肢体不自由の人々もゲームやアートを楽しめる。それが発達していけば、健常な人たちだって視線で入力ができたら、スマートメガネを視線で操作してアプリを起動してボイスメッセージを送れるようになったりする。

 

そういう意味で、インクルーシブ・テックは「みんな」のためになっていくのだ。

 

フローレンスは「パラeスポーツフェス」を開催するなどインクルーシブ・テックの盛り上げに貢献しているが、テクノツールさんや他の企業・団体さんとも手を繋いで、このムーブメントを盛り上げていきたいと思っている。興味を持った方は、ぜひご連絡いただけたら、と思う。

 

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