駒崎 弘樹 公式ブログ 提言・アイデア

WEB3を使った非営利法人の擬似株式創設の仮説

 

他の業界同様に、ソーシャルセクター・NPO業界の経営者の高齢化が止まらない。

 

「NPO代表の6割弱が65歳以上」

 

という衝撃的なデータもあるくらいだ。
当然廃業も増え、セーフティネットは毀損されていく。

 

この状況を救い、かつよりNPOを大きく豊かにさせていける手法を思考実験的に考えたので、皆さんのご意見をいただけたらと思う。

【「創業者が死ぬまで経営者」問題】

 

まず前提として、非営利業界/ソーシャルセクターが抱える問題を概観しよう。

 

NPO経営者や社会起業家の高齢化問題に近接している問題として、非営利/ソーシャルセクターにあるあるなのが、「創業者が死ぬまで経営者」がある。

 

営利企業の場合は、起業家が創業を行い、ある程度大きくなると、その株を自分よりも経営の上手い人や企業に売却し、自分は株式を売却したお金で、また起業をする、ということができる。

 

起業家が連続起業家(シリアル・アントレプレナー)として、最初の起業経験を活かし起業を行い、更に経済的インパクトを生み出していく。

 

完全に株を手放さない場合でも、起業家は大株主となって、経営が得意な人に経営を任せ、投資家などに役割を変えて、後進を育てることでエコシステムに貢献する。

 

起業家として才能のあることと、経営者として才能があることは違うことだ。両方持っている人もいるが、そんなには多くない。起業家としての才能だけであっても成功できる仕組みを整えたのは、資本主義の偉大なところだ。

 

さて、同様のことは、株式の存在しない非営利セクターではしづらい。
「創業者は死ぬまで経営者」になりがちだ。なぜか。

 

【なぜ非営利法人創業者は辞めづらいのか】

 

代表や経営者から降りると、給与が支払われなくなる。かといって、エグジットの際にキャッシュを手に入れられるわけではない。一気に生活の糧を失ってしまう。いくらNPOが「お金のためにやっているのではない」ことが前提だったとしても、リスクをかけて創業し、銀行の連帯保証人にまでなって働き続け、残るものが全くない、というのは相当しんどい。

 

さらには、長年我が子のように育ててきた自分の団体を手放すことによって、アイデンティティを喪失する。

 

経済的にも、精神的にも大きな喪失感に苛まれるのだ。
これによって、構造的に非営利事業経営者は「死ぬまで経営者」となる。

 

この状況に対してポピュラーな解決策として知られるのが、「同族経営」である。自分の子どもに継がせていくのであれば、経済的喪失もアイデンティティ喪失も緩和される。社会福祉法人の多くが同族経営である理由の1つはここにある。

 

【トークンを活用したソーシャル(非営利)M&A】

 

ではどうしたら良いのか。

 

被買収先の団体が発行したトークンを買い取る。一部買取なら資本参加/提携となる。

 

簡単に言うと、(ブロックチェーンを利用した)トークンを活用して擬似株式的にNPOで実装してみてはどうか、ということ。

 

例えば、代表が高齢化して廃業を視野に入れざるを得ないNPO甲があるとする。一方で、NPO甲の実績や熱意ある専門スタッフを仲間にしたい非営利型一般社団法人の乙がいる。

 

NPO甲は、疑似株式的なガバナンストークン(*1)を発行し、一般社団法人乙は甲が発行したトークンを購入することで、擬似M&Aが可能になる。

 

そうすることで代表者は引退後の生活のためのキャッシュを創業者利益として得られるし、設計によっては幹部の方々も売却益を得られる。

 

一般社団乙としては、イチから事業と信頼を構築するよりも、(トークンを購入することを通じて)NPO甲を買う方が安くつくし早い。

 

NPO甲は創業者の高齢化による廃業や事業継承の難しさをクリアできるし、一般社団乙は多角化や事業基盤の拡大に繋がり成長が促される。双方にとって良い結果となるだろう。

 

社会起業家が、シリアル社会起業家として、幾つもの社会課題解決事業を立ち上げていく未来像も見えてくるのではないだろうか。

 

【いろいろありそうなハードル】

 

と、概念上はそうなるのだが、実際はいくつもハードルがある。

 

特に、NPO法の定める「1人1票」原則とのバッティングだ。

 

NPOの総会は、社員(従業員ではなく投票権を持ったメンバー)による投票によって決まる建前になっている。(これは多くのNPOによっては形骸化もしくは死文化している。実態と合わないからだ)

 

擬似株式によるトークンは、1人1票ではなく、その票数配分はトークン数によって規定できるようになるため、そのままいくと整合性が取れない。

 

ただし、定款変更によって、トークン数に基づいた意思決定を理事会が尊重する、という形を作れるかもしれないし、そうでないのかもしれない。

 

この辺りは、ソーシャルセクターのみなさん、DAO界隈のみなさんからご意見頂けたら、と思う。

 

*1 トークンはガバナンストークンやリワードトークン等、複数の種類がある。今回の事例は、疑似株式的な用途なので、ガバナンストークンを出した

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ここからはじゃあ具体的にどう動こうっていう話なのだが、結構突っ込んだ話をするので限定コンテンツとしたい。NPO経営や僕の頭の中身に興味のある人だけ読んでもらえたら。

 

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