【解説】政府発表の「異次元の少子化対策」について
本日3月31日、政府が「こども・子育て政策の強化について(試案)~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」を公表しました。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_kyouka/pdf/kyouka_siryou1.pdf
2022年に生まれた子どもはとうとう80万人を切って過去最少となり、このままでは社会保障制度や地域社会の維持が難しい。お尻に火が付いた政府が今回公表した「異次元の少子化対策」はどんなものなのか。
試案に示された「今後3年間で加速化して取り組むこども・子育て政策」の内容を中心に、僕なりに解説しますね。
1.ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化
《試案の主な項目》
・児童手当の所得制限撤廃、支給期間を高校卒業まで延長
・出産費用の保険適用等を検討
・自治体が実施している子どもの医療費助成の財政負担軽減
・学校給食費無償化
・高等教育費の負担軽減
・若い子育て支援世帯への住宅支援
《解説》
国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、理想の数の子どもを実際には持たない理由としてもっとも多かったのが「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」という経済的理由で、52.6%でした。子育て世帯の経済的負担の軽減は、少子化対策としては非常に重要と言えます。
そこで、フローレンスは「子育て無料社会」の実現を提言してきました(過去記事参照:https://www.komazaki.net/activity/2023/03/post12933/)。
具体的には5つの無償化です。
①妊婦健診・出産費用無償化、②0~2歳児の保育料無償化、③給食費の無償化、④子どもの医療費無償化、⑤大学までの教育費の無償化
なので、この提言の多くが反映されたのは嬉しい!!
◯出産費用の保険適用
「出産費用の保険適用」については、まだこれから検討というステータスで、実現は数年先になりそう。だけど、これが実現すれば、自己負担分も国が支援することになるはずなので、実質的に無料で出産できるようになる。
これって、「無料で出産できるようになるのはお財布的に助かるわ」ってだけではなく、0歳児虐待死を防ぐことに大きく貢献するんです。
金銭的に余裕がなく、妊娠しても病院に行かず、自宅等で出産して、赤ちゃんを遺棄してしまう「0日・0か月児の虐待死」が多く発生しています(令和2年度だけで16件)。。。無料で出産できるようになれば、この件数を大きく減らすことができるはず。
ただし、保険適用によって、高リスクな分娩等を扱う産婦人科では必要な費用を賄えなくなることが懸念されるため、加算等による、病院への経済的サポートも検討する必要があります。
◯自治体が実施している子どもの医療費助成の財政負担軽減
これ、ちょっと難しいので説明しますね。
子どもの医療費が無料の地域にお住まいの方、多いのではないでしょうか?でも、全国どこでも無料というわけではなく、むしろ無料ではない自治体も多いんです。そう、子どもの医療費が無料又は安いのは、自治体が独自に実施する医療費助成のおかげなのです。
これまで、政府は、子どもの医療費助成を行う自治体に対して、ペナルティ(自治体が運営する国民健康保険の国負担分を減額)を科してきました。医療費を無料又は安くすると、安易な受診が増えて、医療費の増大を招くという懸念から。
今回、このペナルティを廃止して、自治体が子どもの医療費助成をしやすくなるってことです。全国どこでも子どもは無料で医療を受けられるようになると良いですね。
◯学校給食費無償化
小中学校の給食費は、1食あたりの保護者負担は230円~300円程度(学年・地域によって異なる)。1食あたりはそんなに高くないけど、小中学校の9年間の合計は約40万円。これが無償になるのは子育て家庭にとっては嬉しいですよね。
◯高等教育費の負担軽減
これが入ったのは嬉しいけど、既存の奨学金制度の充実等に限定されていて残念。
試案では、授業料等減免や給付型奨学金について、令和6年度から多子世帯や理工農系の学生等の中間層(世帯年収約600万円)に拡大することが示されました。初めの1歩としては良いけど、今後もっと拡大して、せめて公立大学は誰でも実質無償で通えるようにしてほしい。
親が「教育にお金かかるんだよね~。もう1人産むのは厳しいわ」って言う時って、大体高校・大学の教育費をイメージしてると思うんですよね。これが無償になるんだったら、子どもを産む家庭も増えるはず。
◯児童手当の拡充(児童手当の所得制限撤廃、支給期間を高校卒業まで延長)
これは、実はフローレンスでは訴えてないんです。
なぜなら、世界的にも現金給付よりも現物給付(公共サービスの無償化)の方が少子化に効くことがわかっているから。国の財政的に超余裕があるなら良いけど、限りある財源なのだから、現物給付の方を頑張ってほしい。
2.全てのこども・子育て世帯を対象とするサービスの拡充
《試案の主な項目》
・全ての子育て家庭を対象とした保育の拡充(「こども誰でも通園制度(仮称)」の創設)
・幼児教育・保育の質の向上(75 年ぶりの配置基準改善と更なる処遇改善)
・妊娠期からの切れ目ない支援の拡充(伴走型支援と産前・産後ケアの拡充)
・多様な支援ニーズへの対応(社会的養護、障害児、医療的ケア児等の支援基盤の充実とひとり親家庭の自立支援)
《解説》
◯「こども誰でも通園制度(仮称)」の創設
ここでの目玉は、なんといっても「こども誰でも通園制度(仮称)」の創設です!
これは、ぼくらが「みんなの保育園」という名称で政府に訴えかけてきたもので、就労の有無に関わらず保育園を利用できるようにする、というもの(過去記事参照:https://www.komazaki.net/activity/2023/03/post13002/)。
「こども誰でも通園制度」っていう名称は、ちょっといまいちだけど・・・入ったからもうそれはヨシとする!
保育園は、戦後間もない1947年に公布された「児童福祉法」で、児童福祉施設として位置づけられました。当時は専業主婦世帯が殆どで、働きに出る女性は少数派。その少数派の「保育を十分に受けることができない」子どもたちのために、福祉事業の一環として、保育園ができたわけです。それから70年以上もの間、保育園は、ずーっと共働きのための施設というのが常識でした。疑問視もされず。
でも、時代は移り変わり、大きな課題だった待機児童問題がほぼ解消され、保育園の定員に空きが次々と出始めました。一方で、保育園を利用できない専業主婦世帯などのいわゆる無園児家庭は「孤独な子育て」で精神的に追い詰められています。
だったら、「共働きじゃなくてもみんなが保育園に週1~2回でも子どもを預けられるようにすべき」って思って、僕らは1年半くらい色んな議員・役人に提言してきたんです。で、今回の試案に入ってめちゃくちゃ嬉しい!
児童福祉法で保育園が始まって以来の大転換!政府の英断に感謝!
◯75 年ぶりの配置基準改善と更なる処遇改善
これは、僕らも何年にも渡って提言し続けてきたもの。やっと動いてくれたかという気持ちです。75年ぶりって・・・
海外と比べてあり得ないくらい多くの子どもを保育士1人で見ないといけないシステムは本当に異常。
試案で示された改善案は、
1歳児・・・6対1から5対1へ
4・5歳児・・・ 30 対1から 25 対1へ
4・5歳児は、それでも海外と比べて異常。せめて15対1くらいにしてほしい。
◯伴走型相談支援と産前・産後ケアの拡充
妊娠、出産から0-2歳の子育て世帯に対する「伴走型相談支援」は、政府がめちゃ気合い入っているもの。
「伴走型相談支援」ってなんだか良い感じに聞こえますが、中身は「お近くの相談機関で、(1)妊娠届出時、(2)妊娠8か月頃、(3)出産後の3回面談を行って出産・育児の見通しを立てる」というもの。「伴走」っていうと常に横を走ってくれるイメージですが、基本は「3回の相談」なんですよね。
これはこれで良いんだけど、不安なとき、ちょっとわからないことがあるときにいつでもさっと聞けるようなものが必要だと思うんです。
で、それを可能にするのがLINE等を活用した相談です。
フローレンスでもLINEを活用して、社会福祉士等の有資格者による子育て世帯向けの相談支援を行っています。日々、行政サービスの情報を提供したり、子育て、病気障害等の相談にのったりしていて、切れ目なく支援できている実感があります。
対面とオンラインのハイブリッドでの伴走型相談支援にすれば、多くの子育て世帯が安心して子育てできるようになると思います。
今回の試案では、「手続き等のデジタル化も念頭に置きつつ制度設計を行う」ことになっていますが、手続きだけでなく、相談そのものもデジタルでできるように設計してほしいです。
◯社会的養護、障害児、医療的ケア児等の支援基盤の充実とひとり親家庭の自立支援
本件について、今回の試案では、こども家庭庁の下で策定される「こども大綱」の中できめ細かい対応を議論していくこととされています。
僕らも、今秋にとりまとめられる予定の「こども大綱」に向けて、政府に提言していきます。
試案に養育費のことが書かれているので、それだけコメント。
試案では、「(ひとり親家庭の自立促進のために)養育費に関する相談支援や取り決めの促進についても強化を図る」とされています。
そんなことしても養育費不払い問題は解決されないと思うんですよね。
韓国等の諸外国みたいに「国による養育費の立替払い制度」を導入しないと抜本的な解決にはならない。
3.共働き・共育ての推進
《試案の主な項目》
・男性育休の取得促進(「男性育休は当たり前」になる社会へ)
・育児期を通じた柔軟な働き方の推進(利用しやすい柔軟な制度へ)
・多様な働き方と子育ての両立支援(多様な選択肢の確保)
《解説》
◯男性育休の取得促進~「男性育休は当たり前」になる社会へ~
「男性育休は当たり前」になる社会へ・・・これは僕らが長年目指し続けているもの。これが政府の試案に入るのは感動!
直近の男性の育児休業取得率(民間)はたったの13.97%。
政府は、それを2025年には50%、2030年には85%にするというアグレッシブな目標を掲げました。
先日の記事でも書きましたが、試案では、男性が「産後パパ育休」(最大28日間)を取りやすいように育休中の父母双方の賃金を100%保障することとしています(過去記事参照:https://www.komazaki.net/activity/2023/03/post12981/)。
その他、男女共に育休を取得しやすいように、「周囲の社員への応援手当など育休を支える体制整備を行う中小企業に対する助成措置を大幅に強化する」こととしています。周囲に気兼ねなく休めるようになるのも大事ですよね。
__________________________
試案に掲げる具体的政策は、以上の1~3。
だけど、その後に大事なことが4つ目として入っています。
「4.こども・子育てにやさしい社会づくりのための意識改革」です。
内閣府の調査によると、「日本の社会が結婚、妊娠、こども・子育てに温かい社会の実現に向かっているか」との問いに対し、約7割が「そう思わない」と回答。
なんか、とてもさみしい気持ちになりませんか?
ベビーカーで電車に乗ろうとしたら舌打ちされたり、「公園で遊ぶ子どもたちの声がうるさい」と苦情があったり。。。
親だけじゃなくて、地域の高齢者、独身の方、企業の経営者・・・みんながこどもや子育て中の方々を応援している。
そんな温かい国にしたい。
試案には、国立博物館などの国の施設で、子連れの方が苦労して並ぶことがないよう、「こどもファスト・トラック」を設けるといった取組が記載されています。
これは、温かい取組を増やしていくほんの一例なんですよね。
「子育て家庭だけ優遇されてズルい」とか、「ひとり親だけ支援受けられてズルい」とか、そういうギスギスした社会は幸せじゃないです。
【まとめ】
政府の試案は、「まさに異次元!」というものから、「まだまだ足りないなー」というものまでありました。
でも、今までの少子化対策と比べると、政府の本気度が格段に違うと思います。
財源問題も残っていて、この試案がどこまで実現できるか、この試案を超えたよりよい政策を実現できるか、未知数です。
だけど、僕らは引き続き、「新しいあたりまえ」を今、そして未来を生きるこども達に手渡せるように、頑張って政府に提言をしていきます!!
最後に、試案のとりまとめに向けて、僕らの意見を真摯に聞いてくださった議員・役人のみなさん、本当にありがとうございました!!
これからもよろしくお願いします!
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