無園児を、無“縁”児や無“援”児にしないためには
8月30日、来年4月に創設されるこども家庭庁の令和5年度概算要求が公表されました※1。その額は4.7兆円。国として初めて「無園児」への支援を本格化させます。
みなさん、「無園児」って知っていますか?
無園児とは、保育園や幼稚園などの施設に通っていない小学校就学前の子どもたちのことです。
無園児になる理由は様々。
・「保育園を利用したいけど仕事が見つからないので利用できない」
・「子どもに障害があって保育園に受け入れてもらえない」
・「外国籍でそもそも入園手続きがわからない」
・「子どもの保育・教育に関心がない(ネグレクト)」
などなど…。
また、無園児家庭の状況も様々で、「周囲に子育てを手助けしてくれる人がいない」「相談もできない」という中で、孤独に陥っている家庭も少なくありません。
コロナで外出が困難になったことも影響して、産後うつの増加や長期化も心配です。
どんなに子どもを可愛いと思っていても、毎日24時間、幼い子どもと一緒に過ごすって、本当に大変です。
孤立して、他の大人との関わりも殆どない生活の中では、ストレスを抱えやすくなることは容易に想像ができます。
双子を含む3人のお子さんをもつあるお母さんが、辛かった体験をお話ししてくれました。
「3人同時に泣く子どもたちと一緒に泣き続けた日、汗だくで泣き続ける子どもたちのおしりを叩いてしまったことがありました。。
『この子たちを私から離さなきゃ、いつか殺してしまう』と、叩いた手や自分の肩のあたりがガタガタガタガタと震えたことを覚えています。」
また、別のお母さんも、無園児時代を振り返って、こんなことを話されました。
「働いていない母親がどこにも預けず自分だけで四六時中子どもを見るというのは、いくら愛情があると言えども限界があります。『子どもが小さいうちは家にいて自分で育てるのが良い母親』だとか、『母乳育児に優るものはない』という考えから抜け出せずにいました。でもその考えから解放されて、長男を預けたとき、自分で自分を苦しめていたことに気づきました。そして、私が苦しんでいることが子どもにも伝わって、子どもにまで息苦しい思いをさせてしまっていたと反省しました。」
この方々は決して、特別ではありません。
無園児家庭で同じように苦しんでいる方々の声を、日々、たくさんお聞きします。誰にでも起こりうる問題なんです!
厚生労働省は、今年2月、無園児が全国で約182万人に上るとの推計を公表。
一体、どうすればいいのか・・・?
僕が特に必要だと思うのは、この4点。
1.保育園をどんな家庭でも利用できる施設に(みんなの保育園)
2.こども宅食等のアウトリーチ支援やデジタルを活用した相談支援
3.外国ルーツ家庭のニーズに応じた支援
4.医療的ケア児等の障害児の保育園での受入れ、居宅訪問型保育の充実
1.保育園をどんな家庭でも利用できる施設に(みんなの保育園)
先日の記事(https://www.komazaki.net/activity/2022/08/post12563/)でも書きましたが、待機児童時代はほぼ終焉していて、保育園には空きが増えているんです。
この空き定員を活用して、無園児を週1~2回でも預かることができれば、多くの無園児家庭を支援することができます。
国も、来年度から、保育園等の空き定員を活用した未就園児の定期預かりのモデル事業を実施する予定です。
子育てを「孤育て」にせず、未来を担う子どもたちをみんなで育てていける社会にしたい。そのために、保育園は、働く親のための保育園から、地域のセーフティーネットとして「みんなの保育園」へ転換していくべきです!
2.こども宅食等のアウトリーチ支援やデジタルを活用した相談支援
無園児家庭の中には、外に出かけることやSOSを出すことが難しい家庭もあります。「周囲の人に困窮を知られたくない」、「過去に相談窓口で冷たい対応を受け不信感がある」など理由は様々です。
そんなご家庭には、「こども宅食」のようなアウトリーチ支援が有効です。
こども宅食は、食品などを配送しながら継続的な見守りを行い、必要な支援につなげていく取組みです。
こども宅食を通じてつながったご家庭には、LINEを活用してオンラインで継続的に声をおかけし、信頼関係を築く中で、ご相談を受けることもあります。そこから、必要に応じて、情報を共有することもできますし、様々な地域のサービスにつなぐこともできます。
このようなオンラインで雑談・相談を受けながら支援する仕組みを、僕らは「デジタルソーシャルワーク」(略して「DSW」)と言っています。
支援につながらず、社会的に孤立している無園児家庭には、こども宅食やDSWのように、積極的に支援を届ける「出前型(アウトリーチ型)の支援」がとっても有効です(記事参考https://www.komazaki.net/activity/2022/06/post12106/)。
国も、アウトリーチが大事だとわかってくれていて、こども家庭庁において「家庭訪問や困り事把握といった具体的な支援の在り方を検討する」と言っています!
こども宅食やDSWが「無園児家庭」の支援施策として位置づけられ、多くの無園児家庭が孤独な子育てから開放されてほしい!
3.外国ルーツ家庭のニーズに応じた支援
無園児の割合が特に高いのが、外国ルーツの家庭です。
北里大学の調査では、「両親のどちらかが外国籍の場合では、未就園の可能性が 1.5 倍高い」という結果が出ています※2。
外国ルーツの子どもたちの場合、無園児になってしまうと、虐待等のリスクが高まってしまうだけでなく、小学校入学まで、日本社会との接点がなくなってしまう可能性が高いです。
保育園や幼稚園である程度日本文化や日本語に触れた上で、小学校に入学するのと、いきなり飛び込むのとでは、超えないといけないハードルの高さが全然違いますよね。
また、みなさんは、昨年6月にショッキングな事件があったのを知っていますか?
自治体へ届け出もされていない保育施設で、外国ルーツの1歳児が、食べ物を喉に詰まらせて亡くなってしまうという悲しい事件が起きてしまいました。
“無届けの保育園で外国籍の1歳児死亡”
https://www.asahi.com/articles/ASQ503TL3Q5SULEI00J.html
園長は日本語が話せず、保育士資格もなく、自宅で、1人で7人もの子どもを保育していたようです。
過去にも事故が起きていたのに、運営していることを行政に届けていなかったため、10年もの間、市や県も実態を把握していなかったのです。
このようなハイリスクな状況にも関わらず、数多くの外国ルーツの子どもたちが通園していました。
なぜ外国ルーツ家庭は、地域の安全な保育園ではなく、このようなハイリスクな保育施設を選択せざるを得ないのか?
国は、外国ルーツの無園児家庭がどのような環境に置かれ、どんな支援を求めているのか、しっかり調査し、必要な支援を届けるべきです!
4.医療的ケア児等の障害児の保育園での受入れ、居宅訪問型保育の充実
障害児、特に医療的ケア児も無園児になりやすいです。
圧倒的に預け先が足りていないのです。
まず、医療的ケア児を預かることができる保育園は殆どありません。
児童発達支援事業所に通うことはできますが、利用できるのは数時間で、保育園のように終日預かってもらえません。医療的ケア児はそもそも施設に通うのが困難な場合も多いです。
その他、居宅訪問型保育という認可事業を活用して、自宅で医療的ケア児を保育することもできます。でも、国から出る報酬額が少なすぎて、財務的に成り立たないため、事業者が参入せず、供給が全く足りていないんです。東京都でこの事業で障害児を預かっているのは、僕らフローレンスくらい。多くの医療的ケア児家庭が利用を待っている状態です。
問題なのは、医療的ケア児の親が、子どもの預け先がなくて就労したくてもできないこと。この国では、医療的ケア児が生まれたら、親は仕事を辞めて、子どものケアをしなければいけないのですか?それって、おかしくないですか?
医療的ケア児自身にとっても、親以外の人たちと過ごし、刺激を受けることは大事です。刺激を受けながら成長する中で、医療的ケアが外れることもあります。
国は、医療的ケア児の親が就労できるように、保育園での医療的ケア児の受入れ促進や居宅訪問型保育(障害児向け)の報酬引上げを実施すべきです!
国には、以上4点を推し進めていただきたいです!
無園児を、無“縁”児や無“援”児にしない!
孤独な子育てで苦しむ家庭がいない、みんなが笑顔で子育てできる社会にしていきましょう!
【ご協力ください】
これからの時代の保育園について声をお寄せください。
(アンケート回答目安:5分程度)
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSenu_vHr3CqPbMQ7EOWySzfbmrUp31qXqNVvN–oFd53ylIAQ/viewform
※1 内閣官房「令和5年度予算概算要求(案)の概要」
https://www.cas.go.jp/jp/yosan/pdf/r5_yosan_gaisan.pdf
※2 北里大学「社会的不利や健康・発達の問題が3、4歳で 保育園・幼稚園等に通っていないことと関連 ―約4万人を対象とした全国調査の分析からー」(2019年3月27日報道発表資料)
https://www.kitasato.ac.jp/jp/albums/abm.php?f=abm00023983.pdf&n=%E7%A4%BE%E4%BC%9