共同養育支援議連の、何がヤバいのか
先日、Twitter上で自民党の柴山議員が非常にヤバいツイートをしていたので戦慄しました。
これ、簡単にいうと、例えばDVされて子どもを連れて逃げたら、未成年略取誘拐罪にあたるっていうことなんですね。
それじゃあDV被害者は逃げられないじゃん。どうしろっていうんだよ。
そこで、以下のように反応しました。
後で違う自民党議員に「暴走とは何事か」と怒られましたが、暴走以外の何者でもない。
これを見た元弁護士の打越さくら議員が、警察に確かめてくれました。「本当にそんなありえないこと言ったの?」と。
つまり、DV被害者が連れて逃げた子どもを、DV加害者が誘拐した事件の話を警察はした、と。そりゃ誘拐罪になるわな。
そんなど真ん中の誘拐事件の話を、あたかも「連れ去ったら全部、誘拐罪」かのようにツイートする柴山議員は、確信犯だとしたら、相当に悪質です。
でも、なぜこんな悪質なツイートをしてまで、共同養育議連はDV被害者を逃したくないのでしょうか?
【逃げられた夫側に立つ共同養育支援議連】
共同養育支援議連は、元々は親子断絶防止議連と言って、妻に子連れ別居された主に夫の、「子どもに会いたいけど会えない。なんとかしてほしい」という要望を受け、結成されました。
親子断絶防止議連は、「離婚後も、夫が子どもに会えるように、別れても親権を持てるように制度を変えよう」ということを目指して、親子断絶防止法を作ろうとしました。
しかしその取り組みは頓挫。ネーミングも共同養育支援議連とマイルドにし、柴山会長のもと、再起動しました。
彼らは、基本的には、離婚後に子どもに会えない(と言っている)父親側の救済を目指しています。そして、離婚後も父親(注1)が妻子に関与できるように、「離婚後共同親権」を導入しようとしています。
離婚後共同親権というのは、離婚後も別れた夫が、子どもに関する重要事項決定権を持ち続けられる仕組みです。重要事項とは、どの学校に進学するか、どこに引っ越すか、病気をどんなふうに治療するか等です。
彼らは、妻側が子どもを連れて逃げる「子連れ別居」を、ネガティブなニュアンスのある「連れ去り」と表現し、子連れ別居を制限したいと考えています。
また、彼らは「虚偽DV」がたくさんあると信じています。(虚偽DVの根拠データは無し)
今回のDV防止法改正は、身体的暴力だけでなく、夜通し説教する等の精神的DVや性的DVでも接近禁止などの保護命令ができるようにしよう、というものですが、彼らは精神的DVを認めてしまったら、「虚偽DVが増える」と考えています。
よって、「要件を明確化し」「認定プロセスの適正性を保障」して「真に救済されるべき方を救う」と言っています。簡単にいうと、すごく厳密に判定しましょう、ということです。
【共同養育議連の問題点】
さて、共同養育議連には、大きな大きな問題があります。
まず、DV等をされている場合、その状況から逃げ出すためには、子どもを連れて加害者のいないところまで逃げるしかありません。それを「連れ去り」と非難して逃がさないようにすることは、被害者の命に関わります。
また、離婚後共同親権も、DV被害者たちにとっては恐怖でしかありません。せっかく離婚したのに、別れた夫がずっと子育ての意思決定に関わり続けられてしまうのです。地獄が続くわけです。
(詳しくは以前書いたこちらをご参照ください)
離婚後共同親権は、なぜダメなのか
https://www.komazaki.net/activity/2019/07/post9584/
また、DV防止法の改正に口を出し、今ですら厳格すぎて使い勝手の悪いDV防止法の保護命令の要件を厳格化しようとしています。これでは、DV被害者の方々を助けることと真逆の方向性で、むしろDV加害者を助けることにつながってしまいます。
【共同養育支援議連の暴走の理由】
なぜ、共同養育支援議連がこのような暴走とも言うべき方向性にひた走るのでしょうか。
基本的には、彼らは以下のことを信じています。
・子どもと会えないかわいそうなお父さんがいる
・お父さんたちは、何もしていないのに、勝手に妻が出て行った
・妻たちはDVなどをでっち上げる虚偽DVを行っている
・よって、DVを保護する際に厳密な判定をして、嘘をついていない人だけを救おう
・かわいそうなお父さんたちが、いつまでも子どもに会えるようにしよう
・そのためには今の親権制度を抜本的に変えて、共同親権にしよう
・DV事案は例外的だから、そこだけうまく対応すれば良い
しかし、
・子どもたちと会いたいときには、家庭裁判所の調停で話し合いをすることができます。
・子どもを連れて家を出て行くということは、実際には勇気がいることです。
・彼らの主張する「虚偽DV」自体、件数等エビデンスがほとんどありませんが、虚偽DVと言われている事案の多くで、実際には言葉の暴力や意に反する性行為などが存在します。
・子どもが、別居している父親に会うことに不安を訴えるケースもあります。
・DV事案かどうかが争われるケースも多く、対立が激しい関係で共同決定を行うことは難しいと思います。
彼らは善意によって出発している(と信じたい)のですが、決定的に不足していることがあります。それは、DV被害者の声を聞くことと、彼女たちへの信頼です。
夫側の意見しか聞いておらず、DV被害者たる妻たちがどのような気持ちで子連れ別居をしたのか、そこを知ろうともしていないのです。
【今後、しなくてはいけないこと】
今後、共同養育議連は、DV防止法の改正に対して口を出し、保護命令の対象範囲を狭く限定してこようとしています。これを防いで、より多くの被害者が救われるよう、精神的DV・性的DVにも広く保護命令が出せるようにしていけるようにしていくべきでしょう。
また、離婚後共同親権については、離婚後も、被害者は加害者に共同決定のための情報を提供しなくてはいけなかったり、相談という名目で接触を求められたり、同居していない元夫が子育てに口を出し続けてしまえるようになるため、同意をもらうために顔色をうかがうことにもなりかねず、非常にネガティブなインパクトが大きいと思います。
司法統計によると、離婚事由における身体的DVの割合は1/5、精神的DVは1/4です。DVは決して、無視して良い「例外」なんかではないのです。
共同養育推進議連が、DV被害者にとって不利な法改正に乗り出さないよう、ウォッチし続けなければならないでしょう。
注1)父親から母親が逃げる場合が多数なので、多くの事案で分かりやすいように父親と表記しています
注2)共同養育支援議連の梅村みずほ議員とAbemaPrimeで議論しました。
上記はダイジェスト版なので、全文の書き起こしが以下です。(書き起こしてくださった方、ありがとうございます)
アベプラ2月8日 ”子連れで逃げたら罪”に? DV被害家族をどう守るか&DV認定の範囲を議論 – transcriber2021’s blog
アベプラ 2022年2月8日放送 “子連れで逃げたら罪”に? DV被害家族をどう守るか&DV認定の範囲を議論 ナレーション