駒崎 弘樹 公式ブログ 提言・アイデア

政策が「届かない」時代をどう乗り越えるか〜「スーパー認定NPO」制度とNPO版ふるさと納税でメガNPOを創出すべし〜

 現場でNPOとして福祉を担っていると、見えてくる景色があります。
 それが「政策が届かない」現状です。

 

【疲弊する自治体】

 政策というのは、国が作って政策メニューとして並べて、それを県や基礎自治体(市町村)が選んで実行して初めてエンドユーザーたる「困っている人たち」に届きます。

 

 しかし、人口減少や人手不足、次々降ってくるコロナ対策によって、基礎自治体はてんてこまい。恒常的にマンパワー不足で、国の作った政策メニューを選んで実行する余力がありません

 

 例えば困窮する子育て家庭に食品を送りながら見守って支援する「こども宅食」が政策化されたのですが、(普通は国が部分的に予算を負担するのですが)国が全額負担して自治体の持ち出しが全く無いにも関わらず、4%の自治体しか実行していない状況です。

 

 結果として、国が良かれと思ってたくさんの政策を作ってメニューに並べても、それを実行する主体が無く、政策と支援は「届かない」という状況になります。

 

 

【メガNPOの創出】

 こうした状況を解決するためにはどうしたら良いか。いっぱいいっぱいの基礎自治体を民間が、特に地域の福祉を担うNPOが補完していけば良いのです。基礎自治体がやりたくてもやれない部分を、NPOが担っていくわけです

 

 しかし、日本のNPOの多くは規模が小さく、十分基礎自治体を補完する力が足りません

 

 ではどうすれば良いか。

 

 メガNPOをたくさん創出するのです。

 

 経済界において、メガベンチャーがイノベーションと産業創出の担い手になったように。基礎自治体を補完する、政策の主体としてメガNPOを育てていくのです。

 

 

【NPOが小規模に留まる理由】

 ではどうすれば良いのか。現在、NPOが小さいままなのは、

 

 (1)行政からの委託事業が安すぎる

 (2)寄付が集まりづらい

 

 ということに主に要因があります。

 (1)に関しては、これはこれで非常に重要な論点なので、別稿で解説します。(触りだけ言うと、行政からの委託事業は間接費を計上できずにやればやるほど困窮する構造なので、「フルコスト・リカバリー」方式を取り入れる必要があります)

 

 (2)に関しては、認定NPO法人という、「しっかりとしたNPOには、税額控除最大50%がつくよ」という仕組みが存在します。例えば10万円寄付すると、自分の住民税から5万円が控除される、という仕組みですね。10万円寄付しても実質的な負担は5万で済む、と。

 

 ただ、これだと「負担の軽減」となるだけで、大きく背中を押すことには残念ながらなっていません

 

 

【ふるさと納税のNPOへの開放】

 一方で、「ふるさと納税」という「自治体への寄付」の伸びは凄まじいものがあり、令和2年度の実績は、約6,725億円(対前年度比:約1.4倍)となっています。

 

出典:総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和3年度実施)」

 

 なぜこんなに寄付が集まるのか。

 

 1つは返礼品が楽しいから。

 もう一つは、控除率が(上限額はあるけど)ほぼ100%だからです。10万円寄付して、ほぼ10万円返ってくる。(所得税還付と住民税控除によって)

 

 つまり、自分の腹が全く傷まないで寄付できる。最強の寄付ツールです

 

 しかし、このふるさと納税、基本的には対象は自治体のみです。佐賀県のように自治体を経由してNPOや社会課題解決プロジェクトに寄付する方法はありますが、基本的に最初の窓口は自治体のみになります。

 

 これを、NPOにも開放するのです。

 

 つまりふるさと納税をある一定の水準を超えたNPOにも広げるのです。

 

「NPO版ふるさと納税」です。

 

 NPOに直接ふるさと納税ができ、NPOが作った農産物や、支援している障害者が作った工芸品等を返礼品としてお返しできます。

 

 こうした制度があれば、寄付金集めを桁違いに加速できるようになり、NPOが大規模化でき、メガNPO創出に繋がっていくでしょう。

 

 

【スーパー認定NPO法人制度の創設】

 では、どのNPOにもふるさと納税ができるようにするのか。

 そうではなく、信頼性を担保する、高い基準が必要です。そう、企業の上場審査のように。

 

 企業は一定の規模になって上場をしようと思うと、監査法人を入れて、東証等から厳しい上場審査を受けて、ようやく上場できます。今の認定NPO法人制度もそこそこ厳しい審査ではありますが、予算規模や社会的インパクトはあまり問われていません。ここを例えば上場のように、「予算10億円以上」というように選別することで、より成果を出しているNPOを絞ることができ、NPO版ふるさと納税の財政的影響を軽くし、実現可能性を高めることにつながります。

 

 こうしたいわば「スーパー認定NPO法人制度」を創設し、そこにNPO版ふるさと納税の活用というインセンティブを付与するのです。いわばNPO版株式上場のような仕組みを生み出すことができ、スタートアップたちが上場を目指すように、NPOたちが目指す一つの中間ゴールを設定することができ、彼らの成長を促せます。そしてメガNPOに育っていくのです。

 

 

【「新しい資本主義」で実現しよう】

 今後、岸田政権が「新しい資本主義」を実現していくならば、このような「新しい寄付市場」の創設を仕掛けていくべきだと思います。

 

 今後、国と基礎自治体だけでは、政策を実行していくこと、支援を隅々まで届けていくことは難しくなっていくでしょう。

 

 ふるさと納税制度と認定NPO法人制度の改正によって、メガNPOを全国に創出し、誰一人取り残さない社会の実現を目指していくべきではないでしょうか。

 

 2030年までに、こうした制度を実現していきたい。日本最大の社会起業家ネットワーク「新公益連盟」を創設した私は、強くそう思っています。

 

 ぜひ、皆さんと共に議論、構想をブラッシュアップしていけたら、と思っています。

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