一斉休校を支える学童職員の約半数は年収150万円未満の惨状
新型コロナウイルスの感染を防ぐためとして、政府からの突然の要請により、3月2日から一斉休校がスタートしました。
小学校は休校になりますが、共働き家庭などに配慮し、放課後児童クラブ(学童保育)は原則開所することになったため、首の皮一枚で繋がりました。
通常であれば学校が終わる時間から稼働を始める学童が、朝から開所することを求められ、学童の現場では混乱が生じていますが、さてここでみなさん、学童で働く職員の処遇がひどいことを、ご存知でしょうか。
【学童の職員ってどんな人】
全国に学童は25,811ヵ所あり、入所児童数は1,299,307人(2019年)となっています※1。
働く人は主に「放課後児童支援員」です。
放課後児童支援員は、2015年度より新設された、学童保育の指導のための専門資格である「放課後児童支援員」資格を持っている人たちで、子ども達の遊びと生活の支援をし、健全な発達を支えます。
保育士や教員免許、2年間の実務経験等等のある方が、都道府県の行っている研修を受けて放課後児童支援員になっていきます。
この支援員さんたちが、補助員さんと共に学童保育の現場で働いてくれています。
ちなみに2015年度より前は、学童保育指導員と呼ばれていたので、今でも指導員さんという名称で呼ばれる場合が多いですが、正確には支援員さんですね。子どもを「指導」というと上から教え込むニュアンスですが、子ども達の自主性や社会性の育ちを「支援」していく、という方向に価値観が変わってきたことが反映されています。
【学童職員の悲惨な現状】
さて、こうした大事な役割を担う学童ですが、全国学童保育連絡協議会が2014年に実施した実態調査結果は、学童保育指導員の悲惨な現状を物語っています※1。
(注:14年調査なので名称は「指導員」のまま)
調査結果概要:
◆約半数の指導員は年収 150 万円未満
週5日以上勤務する指導員であっても、150 万円未満 46.2%、
150 万円以上300 万円未満 31.3%、300 万円以上 5.4%
◆勤続年数が増えても賃金はあがらない(51.9%)
◆待遇は依然として改善されていない
退職金がない(61.6%) 社会保険がない(36.5%)
一時金がない(53.8%) 時間外手当がない(39.0%)
◆正規職員は少なく、多くが非正規職員(非常勤・臨時・嘱託・パートなど)
◆公営・民営あわせても、勤続1年~3年の指導員が半数を占めている
長年の間、非正規前提で、利用料と助成金で運営する以上、「昇級が構造的に困難」であったことも負の歴史として横たわっています。
【処遇改善事業がスタートしたのに、なかなか処遇が良くならないのはなぜなのか?】
とはいえ政府も学童職員の処遇改善のため、2015年度に、「放課後児童支援員等処遇改善等事業」(処遇改善事業)をスタートさせました。
その内容は以下の2つ※2。
いずれも負担割合は国、県、市各1/3ずつとなっています。
①非常勤を含む職員の賃金改善に必要な費用の一部を補助する事業
②常勤職員を配置するための追加費用(賃金改善に必要な費用を含む)の一部を補助する事業
この事業を実施した学童では、以下のとおり確かに職員の平均給与は上がりました。
■処遇改善事業を実施した学童における2013年度と2015年度の給与比較※3
♦月給で支払われる職員全体の年間給与平均:
271.0万円(2013年度)→320.0万円(2015年度)(改善率18.1%)
♦時給で支払われる職員全体の年間給与平均:
86.3万円(2013年度)→95.8万円(2015年度)(改善率11.1%)
しかし、問題は、処遇改善事業を実施している市区町村数(380)が全市区町村数(1,724)の約22%しかないという点です。※4
当然ながらこの事業を実施していない市区町村の学童では、未だに処遇は改善していません。
「他の市区町村、何してんの!?」って話です。
保育士の処遇改善については注目を集め、保育士の平均年収は2013年(309.8万円)から2018年(357.9万円)にかけて約48万円上昇していますが※5、学童職員については、保育士以上に打ち捨てられています。
【学童職員の役割の重要性を認識し、処遇改善を進めるべき】
学童職員の約65%は保育士、教諭などの資格を持っています※1。今のままでは、学童で働きたいという資格保有者はどんどん減ってしまうのではないでしょうか。
子どもたちの安全という重要な役割を担う学童職員の処遇がこのような状況で良いのでしょうか。現に、一斉休校の中、現場の学童職員の方々は必死に子どもの安全を守ってくれています。
是非、処遇改善事業を行っていない8割近い自治体はこれを機に、処遇改善事業を行うことを検討してください。
そして今回の一斉休校で、政府は学童に対応を丸投げするだけでなく、彼らの処遇改善について今一度考えてほしいと思います。
※1 厚生労働省「令和元年(2019年) 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況(令和元年(2019年)5月1日現在)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000189556_00003.html?fbclid=IwAR3hmQuX7i971_vOZ9Le4pPPVrvq05PtwR5hWp8rz7VrC-gppB-uMa9lToM※2「第6回 社会保障審議会児童部会放課後児童対策に関する専門委員会 参考資料」(2018年2月27日)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000196533.pdfその他放課後児童支援員の処遇改善に対し、キャリアアップ処遇改善もあるが本稿では詳細を割愛。
※3内閣府「平成28年度 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)に係る実態調査の集計結果概要について」
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/meeting/kodomo_kosodate/k_31/pdf/s9-3.pdf※4 厚生労働関係部局長会議(令和2年1月17日) 子ども家庭局の資料 より。380カ所はP207に記載。
※5 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
新着記事トップ5
提言・解説・アイディアの最新記事
-
環境や社会に優しい、ラボグロウンダイヤモンドとは?
-
【速報】政府備蓄米を困窮家庭の子どもたちに配りやすくなったので、その日本一早い解説
-
オーストラリアのように、日本でも子どもたちにSNSを禁止すべきか