ホームレス支援の第一人者と考える福祉の問題点。新たな「出張る福祉」とは?
自ら情報を集め、「申請」をしなければ支援にたどり着かない。これが日本の福祉の大きな課題「申請主義」です。
ホームレス支援をはじめとした生活困窮者の支援では申請主義を乗り越えるべく、夜回りや炊き出しといった「アウトリーチ」が進んでいます。今回は、貧困問題の第一人者である、NPO法人もやいの大西連さんと、支援をどうアップデートするか議論しました。
大西連
ホームレス支援活動や、生活困窮された方への相談支援に携わる。NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。
駒崎弘樹
NPO法人フローレンス 代表理事。親子の笑顔を妨げる社会問題に「こども宅食」をはじめとした様々な事業で取り組む。
駒崎:日本の福祉って「お店モデル」じゃないですか。17時までに役所の相談窓口に来て申請書をちゃんと書いてくれたら、まあ支援をしても良いですよ、というモデル。そこを、出張っていって支援を届ける。あるいは、大事になる前に関係性をつくり伴走し、困ったときにキャッチするというアウトリーチ型の支援が求められると考えています。
※アウトリーチ:積極的に対象者の居る場所に出向いて支援をすること
大西:貧困分野の伝統的なアウトリーチには「夜回り」や「炊き出し」といった取り組みがありますが、その次が出てこない。「届けていく」というモデルにやっと舵を切り始めたばかりなので、何が最適なのかを試行錯誤していく段階かな、と思っています。
ホームレス支援における「アウトリーチ」の作法
大西:夜回りのような伝統的なアウトリーチにも作法が色々あります。その人が望んでないのに勝手に来る、ということはおせっかいな側面もありますから。
例えば、何かお土産を持っていくこと。おにぎりを持っていってみたり、体調が悪い人にはお薬を持っていってみたり。そんな工夫があったわけです。子ども・家庭支援のアウトリーチでも、そういう工夫が必要だと思うんですよね。
ありがちなのは、条件を設定して、そこに対象の人をご案内する支援。でもこれがあんまりうまくいかないんですよね。貧困世帯だけのこども食堂に、子どもは行きたがらないというように。
誰にも知られず困窮していく、そんな家庭に支援を届けるには
大西:僕ね、こども宅食は、希望者全員にあげられないの?ってすごく思うんですけど。
駒崎:そう、財源がありさえすれば、普遍的なサービスにしたい。そうすれば、ある種の「スティグマ」から完全に解放されるから。
※スティグマ:個人のもつある属性によって、いわれのない差別や偏見の対象となること。
大西:うん、やっぱり生活保護や、就学援助等の支援を利用している人って、まだまだ一部。そして、それを利用していないけど、同じぐらい困窮してる人がやっぱりいるんです。それを、行政は把握できてない。
例えば、生活保護の案内ってこんなステキなパンフレットじゃない。そもそも案内自体が手に取れるところに置いていなかったりしますし。
まずはこども宅食に申し込んでもらってから、他の支援につないでいっても良いじゃないですか、生活保護なり何なりと。
アウトリーチでは、①色んな入り口を作る ②利用のハードルを下げる ③手に取りやすくすることをしないといけないですね。
駒崎:本当にその通り。フィンランドでは、子どもが生まれた時に全ての妊婦が無料でもらえる「育児パッケージ」(ベビー服や羽毛布団など生後1年間に役立つ品がぎっしり入ったパッケージが届く)という仕組みがあります。明石市では、乳児のいる世帯全てにオムツを届ける「おむつ宅配」が始まりました。
大西:素晴らしいですね。本当にフックはなんでも良いと思うんです。本チャンの制度にちゃんとつながるためのフックを、どれだけ色んなチャネルでつくれるかにかかっている。
そのためには、行政の人が「できるだけ多くの人に支援に繋がって欲しい」というマインドに完全に変わっていかなきゃいけない。
駒崎:本当にそうだよね。だからこそ、待つ福祉から、出張る福祉へのシフトを促さなきゃいけない。
ワンカップ最強説?福祉を「専門家」の特権にしてはいけない。
大西:僕ね、アウトリーチで出張るのは、福祉の専門家じゃなくて良いと思うんです。
生活保護のことに詳しくないとアウトリーチをやっちゃいけないってことは全然ないし、福祉の専門家がホームレスの人たちへのコミュニケーションとか夜回りとかがすごい得意かっていうと、全然そうじゃない。
煙草1本一緒に吸う方が良いという文化があったり、ワンカップ持って行ったら最強みたいなね(笑)。もちろん人によりますよ。
要するに、少し角度を変えて支援を届けていく、ということが最も重要です。
「パターナリズム」に陥らないために。
駒崎:アウトリーチは、ある種のおせっかい行為じゃないですか。
おせっかい感を軽減するために食品を携えたり、オムツとかを携えたりするわけですが、それはパターナリズムに陥っていないかという批判もあるよね。
パターナリズム:強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意志は問わずに介入・干渉・支援すること
大西:持つ者・持たざる者、力がある人・ない人、お金がある人・ない人。非対称性が存在する以上、残念ながら必ずパターナリズムは生まれてしまう。
じゃあ、どう減らせるか。
まず、本人がその制度やサービスを利用することを選択できる、そして、その選択肢が複数あるのが一番良いですよね。
そして、「あなたに対する支援のハンドルを握るのは、あなた自身なんだよ」ということが大事にできると、減らしていける、とは思いますね。
駒崎:なるほど、すごい勉強になる。パターナリズムかそうじゃないかのゼロイチではなくて、本人が選択できるという設計にすることで、パターナリズムを減らしていくっていうことか。大西:生活保護とかは真逆で、住んでいる所によって自動的に担当者が決まってしまい、選択の余地がない。でも、自分が支援を利用するときに会話しなければならない担当者が苦手、という人もいるわけです。
あと、これは我々も懸命に批判したし反対したんですが、生活困窮者自立支援制度のケアプランは、本人が作れないんですね。権利としてその制度を利用するんだという意識や、自分でケアプランをつくることができるという主体性ををちゃんと制度として担保しておくことが大事だと思っています。
駒崎:受益者の主体性をいかに実現していくかは重要で、我々が忘れちゃいけない視点だね。
民間が「少し斜めの位置」をとることが大切。
大西:やっぱり相談支援をするってなると、依存的になったりとか、「この人に相談できないと支援を利用できないのでは」という不安を抱かせてしまったりとか、どうしても上下関係が生まれてしまいます。行政の相談支援なんかだとその上下関係は顕著です。カウンターのこちら側と向こう側、生活保護を認定する側とされる側ですから、どうしても。
民間の団体は、少し斜めの位置を取ることができます。
僕ら生活保護を利用する人の相談をものすごく受けているんですが、深刻な相談だけではなく、日常のコミュニケーションの齟齬やすれ違いによる相談も多いです。
「自分の担当者が、私の病気に対して理解がない」とか、「本当はこんな勉強したいんだけど、担当者の人がすごく頑張って就職支援をしてくれてるから言いにくい」とか。
そこで僕らが何をするかというと、担当の人に連絡するんです。「本人こう言ってますけど、どう?」と。
実はそれで解決することってたくさんあるんですよ。
なかなか変われない福祉のアップデートを先導していく
駒崎:なかなか変われないこの福祉を「こども宅食」が旗振り役として先導できるとするならば、我々NPOがやる意味があるのではないかなと。
大西:その通りだと思います。
最適な方法がない今、どう作っていくか。今までやってたことの延長線上にある可能性もあれば、まったく違うことをやらなきゃいけないかもしれない。もしかしたら今まで否定されてたことをやらなきゃいけないかもしれないので、時には戦うこともあるかもしれないです。
でも、トライ&エラーするしかないというのを徹底していきたいですね。