給食費の未納問題から始まった「こどもおなか一杯便」。100円を握りしめてパン1つ買う中学生のために。
生活が厳しい状況の家庭を支えるひとつの手段として「食生活をサポートする」ことは、衣食住の安定にもつながっていく重要な施策です。また、そうした施策が広まっていくためには、地域の人々のサポートも必要不可欠です。
こども宅食と同様に「食品を届ける」事業が全国各地、さまざまな形でスタートしている中で、いち早くこども宅食の事業モデルをマネていただき、佐賀県で事業展開をスタートした「こどもおなか一杯便」。
「地域の困りごとは地域で解決しよう」をキャッチフレーズに、市民の力で地域の生活が厳しい状況の食生活を支援しています。どのようにして事業を地域で展開しているのか、こどもおなか一杯便の大野博之さんにお話を伺いました。
大野:僕たちも経済的に厳しい状況のご家庭への食生活支援をしたかったので、「こども宅食」を知った時は「これだ!」と思いましたよ。
でも、声をかけたのが早すぎたみたいで、待ってって(笑)。本当はこども宅食のグループ事業として始めたかったのに、仕方ないから別の名前でやろうって。「宅食」はわかりにくいから「便」を使おう。そんで、子どもがおなかいっぱいになるようにってことで「こどもおなか一杯便」にしました。
──立ち上げようと思ったきっかけは?
大野:もともと私が小学校のPTAの役員をやっていた時に、年間100万円くらいの給食費の未納問題があったんです。
あまりにも額が大きくて問題になったので、PTAの第三者委員会として給食費を回収する委員会を立ち上げて、未納者への回収を始めたんですね。友だちの親から連絡がきますから、ほとんど回収できました。
でも、支払わない家庭があったので直接回収に伺ったんです。そうしたらね、私たちも知らなかったんですが、その家庭は親が発達障害を抱える方で、ご自身では支払いができない状態だったんです。そこはすぐに解決できたんですけどね。
同学年の子どもたちが中学校に進学して、団体を一緒にやっている大坪さんが中学校のPTAの役員になったので、未払いだった家庭が気になって学校にのぞきに行ったんですよ。
そうしたら、その子が体格は大きいのに昼休みに100円だけ握りしめてパン1つだけ買っていた。それが、成長期の男の子のお昼ご飯かと……自分ならお腹が減って耐えられないだろうなと思いまして。
──食生活に苦しんでいる方を間近で見られたのが、大きなきっかけになったんですね。
大野:子どもを助けたい、という想いが一番だったわけではなくて、「あいつら辛いだろうな」って思ったんです。
私が同い年で同じ境遇だったら、腹が減って辛いよって。
辛い状況を救いたい、なんてそんな思いではなくて、辛い状況に共感したんです。辛い思いしない方がええよな、辛いなら辛くないようにしようなって。
だから、支援とかそんな言い方ではなくて、キャッチフレーズの「地域の困りごとは地域みんなで解決しよう」という想いが一番ですね。
──なるほど。それで、お腹が減っている子どもたちへ食事を届けられないか、考えられ始めたんですね。立ち上げまで非常にご苦労されたと伺いました。
大野:大変でしたね。似たようなこと考えている人たちはおらんか、いろんなところに話をしに行きましたけど、ことごとく駄目だったんですね。何でかというと、3つのハードルがあるんですよ。1つが「仕入れ」、2つ目が「ターゲットを絞る」、3つ目が「運送」です。
──「仕入れ」、「ターゲットを絞る」、「運送」ですか。
大野:似た事業をいろいろ研究していた時に、仕入れっていうのは、たとえばフードバンクを真似しようと思うと、賞味期限間近の食べものを配達しているんですよ。
どこに賞味期限間近の食べものがあるんだろうと思って、まずはスーパーに行ったら全然掛け合ってもらえなくて。なぜなら、期限内に売り切れることが彼らの仕事だから。残っているものを安くくれ、なんて彼らの商売邪魔しているんですよね。
じゃあ、メーカーか問屋かなと思って佐賀で一番大きい食品を扱う問屋に行ったら、そこもダメ。賞味期限切れの食べ物っていうのはメーカーからお金が支払われて処分するらしいんですね。彼らも処分を見込んで小売店に、特売価格で卸せると。難しい話ばっかりで、「仕入れ」は頭打ちになりました。
──なるほど・・・。
大野:そんで、次は「運送」。大手配送会社に話したら、学校から半径2キロ以内に運ぶだけで1,500円やと。配達は2回あるので3,000円は高すぎる。ダメやな、どうしようかなと思っていたら現れたんですよ。「こども宅食」が。
──立ち上げようと試行錯誤されていたタイミングでの「こども宅食」との出会いだったんですね。
大野:北川副でやらせてほしいとすぐに頼みに行きましたね。まだ待ってってことだったんで、手法とかを教えてもらって。
──具体的にこども宅食の仕組みで、こどもおなか一杯便に取り入れた仕組みはどのような部分なのでしょうか?
大野:たとえば「運送」ですね。こども宅食の場合は西濃運輸さんのココネットという地域に根づいた運送会社さんと取り組まれていて、それやったら僕らも大手より地元の会社だと声をかけたんです。それで地元の、個人事業で運送をしている人にたどり着いて、600円で運ぶと言ってくれたんです。
「仕入れ」に関しても地元を味方につけようと。北川副にあるスーパーに、問屋さんから安く仕入れてもらって購入することにしました。そうやって「地域」にターゲットを絞ってやることが重要なんだと学びました。
──地元でパートナーを見つけていったんですね。現在はどのような展開に?
大野:北川副小学校に通学しているお子さんがいて、ひとり親や就学援助を受けている家庭を対象に食品を詰め合わせたケースを送っています。1年間、2ヶ月に1回お米や飲み物、インスタント食品など食品パックを作って送っています。
──世帯数は?
大野:支援枠は20世帯ですが、現在は9世帯に送っています。佐賀県全体だと相対的貧困家庭は11.47%と低いんですが、北川副小学校校区は20%の子どもが就学援助を利用しているんですね。500世帯通学していて、100世帯は相対的貧困家庭なんで、もっと支援を広めていきたいです。
──事業を広めていくことは、どのような活動であっても課題にあがります。
大野:私たちも「広める」ことは課題ですが難しいのが、地域でやっているからこそ誰が支援を使っているのかわかってはいけない、というのが基本なんです。
これはこども宅食から学んだことで、地域が絡むからこそ顔バレは支援を使う側が嫌だろうから、僕たちが家庭とコンタクトとるのはNGです。だからリアクションがわからないから、広めにくくて。
学校でチラシも配っているのですが、子どもって親にチラシを渡さないんですよ。カバンの中に入れっぱなし。自分もそうだったからしょうがないけど(笑)、いまは地域全体で協力者を増やしながら、広めていっていますね。
──現在は何名くらい協力者がいらっしゃるんですか?
大野:いわゆるボードメンバーという主要メンバーが14人くらいで、アドバイザリーボードが10人くらいです。
──え、25人は多いですね!
大野:それとは別に、サポーターズチームが20人くらいいます。荷物を詰めたり、手書きのお手紙を書いたりして1パック1パックに入れています。
──はあー。素晴らしい協力体制ですね。みなさん地域の方々ですか?
大野:地域の方々ですね。みんな引き込んで手伝ってもらった方が、地域活動として動きやすいじゃないですか。
だから、すぐに仲間にしてしまうんです。自治会長とかまちづくり協議会の会長とか民生委員とか児童委員とか、お偉いさんどんどん巻き込んでますよ(笑)。
チームづくりは本当に大事で、ボードメンバーに入ったほうがいいような元気で顔が広い人をあえてサポーターズチームに入れるんですよ。
それでサポーターズチームのまとめ役をやってもらうんです。だいぶ仕組みは固まってきたんで、それほど集まる回数も多くないですし、年に1回のみんなで集まる飲み会は大事にしていますね(笑)。
──飲み会が大事ですか(笑)。
大野:難しい話は楽にやったほうがいいですよ。あと、地元の人っていう気楽さもあるからやりやすい。ただ、気心知れているかは別問題なんで、そういう時は飲んだ方が「どうなのよ?」って突っ込みやすいですね。
ようは「小さなエリアでやる」ってことが重要なんです。
県でやる、市でやるのは難しくても地域レベルなら動けるかもしれない。でも地域活動って、ちょっと怪しく感じるかもしれないでしょ。
だから、コミュニティースクールの学校運営協議会の中に「こどもおなか一杯便事業部」を作ってもらって、後ろ盾もしっかりしておきました。そうしたら、支援を使う側もちょっと安心ですよね。
──これから「こども宅食」が佐賀県でスタートしますが、どのように思われますか?ぜひ地域という観点でアドバイスいただけたらと。
大野:こども宅食の強みは、大企業や大都市とつながっていることですよね。
他の地域が同じようなことを始めようと思っても、一番困るのは食べ物の「仕入れ」でしょうから、ルートを確保できているのは準備をしなくて済むわけですし、ありがたいですよね。
「こども宅食」も、地域をサポートするお気持ちでしょうから我々も助かります。(小声で)だから、ちょっと、食べ物であまりが出たらぜひうちにもね(笑)。
──(笑)。大変なことはありつつも、気楽にやっていることがこどもおなか一杯便の良さなんだろうなと感じました。社会と地域がつながって、幸せな地域な感じがします。
大野:これから人口減少はますます加速するでしょうし、そんな中で北川副地域だけ人口が多くて、その理由はこどもおなか一杯便や、地域で発達障害の子どもを理解する勉強会など子育てしやすい地域を整えることが、将来にもつながっていくのかなと思ってやっていますね。
(構成/羽佐田瑶子)
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