社会貢献がイノベーションを加速する?日本での特別養子縁組 普及の影の立役者・ジョンソン&ジョンソンに学ぶ
2018年5月某日。ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ(以下J&J)の東京オフィスに、お伺いしました。
2014年から継続してフローレンスの活動を支援してくださっているJ&J。
社会貢献委員会マネージャ伊藤さんとの対談を通して、J&Jがエクセレントカンパニーであり続けている秘訣も垣間見る事ができました。
伊藤さんプロフィール
2004年、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社に入社。経理財務本部長秘書として10年勤務し、社会貢献委員会の活動にも従事。2014年7月から専任者として、同委員会のマネジャーに着任。また、「買うボラ(東北のNPOなどが提供する商品を買うことで支援する)」や「社内のチームビルディングにもつながるプログラム設計」など、”できる人が、できる時に、できる事を”をモットーに、社員が楽しんで活動に参加できる環境づくりに取り組んでいる。
赤ちゃん縁組事業の影の立役者
駒崎:J&Jさんからは、われわれフローレンスの特別養子縁組支援の活動に対して、2017年度、2018年度と継続してご支援を頂きました。
そして、頂いたご寄付を元に赤ちゃんの受け入れ先となる養親候補の方々の研修プログラムをつくり、実施することができました。伊藤さんにも二日間にわたってご参加頂きましたね。
伊藤:あの研修は私としても色々と考えを深める良い機会になりました。
実際に特別養子縁組で生まれたご家族が、仙台からお子さんと一緒に参加してくれました。ほのぼのしていて、親子が共に愛し合っている様子がすごく伝わってきました。改めて、本当に意義のある活動なんだなと。
一方で、養子を迎えて親になること、家族になることは生半可なことではありません。子どもが養子縁組される背景にはどのような事情があるのか、養子縁組で子どもを迎え育てる上で理解しておかねばならないことを交えて「それでもあなたがたは本当に子どもを迎えたいですか?」というメッセージを鋭く投げかけられて、参加されたご夫婦がお互いに深く向き合い、話し合われていたのが印象的でした。
駒崎:特別養子縁組というのは、子どもがただ家庭に行けばいいものではありません。
とても厳しい環境の中で生まれてきた子どもが本当に幸せになるためには、マッチングが重要で、その前提として養親さんはきちんと学び、必要なトレーニングを受けていることが大切です。
だからキラキラしたところを見せるだけじゃなくて、あえて厳しいことも言うようにしているんです。そういった積み重ねを通して、良い家族になっていってもらえたら、と。
駒崎:世の中では、特別養子縁組というのはまだまだマイナーな選択肢です。これをもっともっと身近なものにしていきたいと思っています。
また、他にも御社からは、日本初の障害児保育園ヘレン荻窪の設立時の開設費用助成や、Donate a Photoという写真の投稿を通したひとり親支援のプログラムなど、多くのサポートを頂きました。
また助成金によるご支援に留まらず、先述のヘレンでは社員の皆さんによるワックスかけのボランティアや、障害児訪問保育アニーの子どもたちの使うおもちゃの手作りボランティアなど、共に汗を流して頂いたこともありますね。
伊藤: 社員も楽しんで参加していました!親御さんにも喜んでもらえたみたいで良かったです。
創業時から脈々と受け継がれる社会貢献活動
駒崎:J&Jさんはいつ頃からこのような活動を始められたんでしょうか?
伊藤:実はかれこれ1世紀以上も前、アメリカ本社の創業初期から続く伝統です。当時、バンドエイドを作っていた工場の女性スタッフ達が非公式に社会貢献活動をやっていたそうです。
駒崎:そんな昔から脈々と受け継がれてきたんですね!
伊藤:日本オフィスでも、2002年度より「社会貢献委員会」として組織化されました。
私は2004年に秘書として入社してから、まずはボランティアへの参加、そして2009年からは社会貢献委員会の有志リーダーとして、活動に携わってきました。そして2011年の東日本大震災を契機に「もっと何か出来ないか?」と全社に呼びかけたところ、多くのメンバーが手を挙げてくれて、活動の質・量ともにぐっと伸びたんです。
駒崎:いまはどんな体制で取り組まれているんですか?
伊藤:まず専任のスタッフが私を入れて3人いて、フローレンスさん含め様々なプロジェクトへの助成の事務作業や、全体のとりまとめなどをやっています。
それに加えて、社内の他の部署と兼任で活動する16人のリーダーと約140人のメンバーがいます。いずれも有志で手を上げたメンバーで、彼らを中心に約4,500人いる日本オフィス全体を巻き込む形で活動しています。
助成プログラムのテーマとしては、女性、子ども、復興支援の三つが主な柱になります。
助成プログラムにはたくさんの団体からご応募を頂きます。フローレンスさんの特別養子縁組の取り組みもそうですが、社会的なニーズが大きく、それに風穴を空けられるような取り組みか、かつ応募していただいた内容を実現させる実行力がある団体か、というあたりを基準に、助成先を選ばせていただいていますね。
英語以上の共通言語、「我が信条(Our Credo) 」
駒崎:多くの社員の方が積極的に参加されているんですね!日々お忙しいと思うんですが、何が皆さんを突き動かしているんでしょう?
伊藤:根っこにあるのはJ&Jの掲げる「我が信条(Our Credo)」(以下、「クレドー」)への共感だと思います。
そもそも当社の社員は、クレドーに掲げられた第一の責任である、顧客の役に立つこと、患者さんの命を救うことに強く共感した人間が集まっている。だからみんな困っている人の役に立ちたいという気持ちが強いんです。
そして社会貢献委員会の活動は、「地域社会への貢献」という、クレドーの第三の責任に沿ったものでもあります。
伊藤:私たちの社内では「それ『クレドー』に沿ってる?」というような会話が日常的に行われています。本社が米国にある外資系企業なので英語を使う場面が多いですが、「クレドー」はそれ以上の共通言語になっている感覚があります。
中途で入社して、「前職でも組織理念のようなものはあったけど形骸化していた、J&Jに来て驚いた」という社員も多いですね。
駒崎:すごい!そこまでクレドーを浸透させる秘訣みたいなものはあるんでしょうか?
伊藤:とにかく折に触れて社員に伝えるという点でしょうか。
私たちは年に一度「今年はどれくらいクレドーに沿って仕事をすることができたか」を測るサーベイを全世界の社員に実施しています。多いものだと108項目ほどもある、本格的なものです。
自分たち自身で振り返る機会になるのに加えて、管理職にとっては部下へのクレドー浸透度が評価に反映されたりします。
社員の社会貢献活動が企業にもたらすもの
駒崎:とはいえ、本業と離れた社会貢献活動は、利益を出すという観点からはネガティブに捉えられがちですよね。そのあたりはどう位置づけられているんですか?
伊藤:クレドーとの整合性というのが大前提ですが、とはいえ私たちも営利企業なので、コストを上回るメリットがあるから継続してやっています。
メンバーからは、普段は接点のない他の部署のメンバーとのネットワーク作りに役立ったり、社内の「サードプレイス」的な役割も果たしているという声をよく聞きますね。
また、若手社員などの場合、日常の業務でプロジェクトマネジメントを経験する機会は少ないかもしれませんが、JJCCでは社歴や経験などに関係なく、手を挙げた社員が率先して、リーダー役を務めることが当たり前となっています。そのため、JJCCの活動を通じて、社会人としての経験の幅を広げるチャンスがあり、社員の成長にも一役買っていると考えています。
これからの日本社会のロールモデルに
駒崎:最後に、社会貢献委員会のこれからについて一言お願いします。
伊藤:個人的には、崇高な志というよりもうちょっと身近な、社会が良くなれば自分も生きやすくなる、そんな感覚で取り組んでいます。
例えば夫婦であれば、まずは自分が変われば、夫にもその影響が出るでしょう。夫が変われば、夫の勤め先の会社にもその変化が伝わるかもしれない。そうやって自分たちの活動の影響範囲を広げていけたらなと。
会社としては創業から1世紀以上、クレドーが出来てから今年で75年、私たちはヘルスケアを軸として事業に取り組んできました。
世界中の人がより健康に長生きしてハッピーになる。そんなビジョンに向けて、引き続き社会貢献活動もやっていきます。
駒崎:ありがとうございます。J&Jさんは私たちフローレンスにとって、社会課題解決の大事なパートナーです。今後とも一緒に頑張っていきましょう!
私たちNPOだけでは社会を変えることはできません。仲間となってくださる方々と協働して、新しいソーシャルインパクトを起こしていきたいと思います。
これからも皆さまの応援よろしくお願いいたします。
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