広告費に意味がなくなる?新しい時代に企業がファンを掴むための「遠回りな近道」
文京区のひとり親家庭や経済的に厳しい家庭に食品を届ける「こども宅食」。企業、行政、5つの非営利団体がそれぞれの強みを活かして協力し、子どもの貧困問題の解決を目指しています。
運営団体の一つ、一般社団法人RCFでは、こども宅食以前から、企業と行政、地域をつなぎ、社会課題解決のサポートを行ってきました。RCF代表理事の藤沢は「企業が社会課題の解決に関わることは、長期的に見るとメリットが大きい」と語ります。
社会課題の解決は、一見、売上につながらないように思えます。同じくこども宅食の運営に携わる認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎が、藤沢に企業が社会課題を解決することで得られるメリットについて聞きました。
一般社団法人RCF 代表理事 藤沢烈
1975年京都府生まれ。一橋大学卒業後マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立し、NPO・社会事業等に特化したコンサルティング会社を経営。東日本大震災後、内閣官房防災ボランティア連携室勤務を経てRCF復興支援チーム(現・一般社団法人RCF)を設立。企業や省庁・地方自治体のディスカッションパートナーとしてひと・まち・産業の復興事業創造や事業推進に伴走してきた知見を活かし、近年は東北以外の地方創生や多様な社会課題にも取り組みを広げている。
震災直後に被災地のニーズをつかんだ、自衛隊の食糧支援
駒崎:普段、企業や行政と一緒に社会的な取り組みをサポートしている藤沢さんですが、なぜ「こども宅食」に参加しようと思ったのですか?
藤沢:支援を必要としている人が「助けて」と言うのを待つのではなく、自ら支援を届けに行く。そんな新しいアプローチに興味を惹かれたのが一番の理由です。
また、「食品を届ける」というアプローチに、震災の時の経験がリンクしたことも理由の一つです。震災直後はどの自治体も情報が錯綜し、被災した方々のニーズが把握しづらい状況にありました。そんななか、岩手県は比較的早い段階で被災した方々のニーズをつかめていたのです。
そこには、自衛隊の工夫がありました。岩手では、自衛隊が食品を届けると同時に、アンケートを取っていたんですよ。その結果、どの地域に何人の住民がいるかや性別、年齢、それぞれが抱えているニーズを、いち早く的確に知ることができたんです。
「食品を届ける」というきっかけがあったことで、アンケートの回答率が飛躍的に上がりました。アンケートだけだと、なかなか回答してもらえないんですよ。
(陸上自衛隊HPより引用)
駒崎:それは、そうですよね。突然、「アンケート取らせてください!」って言われても、被災した方々からしたら、「何しに来たの?」と思ってしまいますもんね。
藤沢:その経験もあって、家庭に喜ばれて、かつ、必要とされる「食品」をきっかけにして、それぞれのご家庭のニーズを探っていくという手法が革新的だと感じたんです。「食品」という切り口があることで、今まで支援が届いていなかった方々ともつながっていけると直感しました。
また、「こども宅食」では、様々な立場の組織が連携する、コレクティブ・インパクトという手法を取り入れています。こちらも参加の決め手となりました。
私たちは、これまでの復興支援の経験から、企業・行政・NPOなど組織を超えた取り組みは、より効果的な支援ができ、さらに、お互いにメリットが大きいと感じていたんです。
駒崎:お互いにメリットが大きいとはどういうことですか?
藤沢:行政・企業・NPOにはそれぞれ強みと弱みがあります。お互いの強みと弱みを補い合うことで、それぞれが「やりたいけど、できなかったこと」ができるようになるんです。
駒崎:なるほど。RCFでも同じような経験をしたことはありますか?
藤沢:RCFでは、震災後、キリン株式会社(以下キリン)と福島県いわき市の事業者をつなげ、新しい商品を生み出しました。
キリンには、被災地に何かサポートをしたいものの、地域のニーズを知るきっかけがありませんでした。その一方で、いわき市では、原発事故の影響で風評被害があり、ただ野菜を売るのではなく、新たな打ち出し方をする必要が出てきたんです。
商品開発の実績があるキリンと、地域のニーズを把握している事業者。その2つが協力し、福島の野菜を使った商品を開発することで、地域に新しい価値を生み出すことができたんです。
駒崎:お互いの強みを活かすことで、一つの組織ではできなかったことが実現できたんですね。
社会課題の解決を通じて、信頼が生まれる
駒崎:キリンは「こども宅食」の食品寄付にもご協力いただいています。企業にとって、社会課題の解決を行うメリットはあるのでしょうか?
藤沢:目の前の売上だけ見ると、メリットは少ないかもしれません。被災地支援でも、思うように収益が上がらず、すぐに辞めてしまう企業もありました。
しかし、長期的にみると、非常に大きなメリットがあります。キリンの場合、被災地支援に関わることで、地域からの信頼を勝ち取ることができたのです。
駒崎:「地域からの信頼」とは、具体的にどのようなことですか?
藤沢:支援を通して地域の人と繋がることで、改めてキリンの良さが伝わるきっかけになりました。地域の人から「せっかく飲むならキリンだよね」と声がかかるほどです。
「何を買うか」から「誰から買うか」へ
駒崎:地域は賑わい、企業は地域との信頼関係が築ける。お互いにとってWin-Winな関係になっているんですね。
たしかに、広告費をかけて「良い商品です」と宣伝するよりも、キリンのように行動で示してくれたほうが「この会社の商品なら買いたい」という気持ちになりますね。
藤沢:そうなんです。「どんな会社の商品を買うか」は、価格や品質だけでは決められない時代になっているように感じます。
日本では、震災をきっかけに、企業の社会的な責任(以下CSR)が問われるようになりました。価格や品質など、商品そのものだけでなく、「自分たちの仕事やサービスが、社会にどんな良い影響を与えられるのか」が重要になりました。
孫社長の100億円の寄付(※)をはじめ、大手企業のトップがCSRを積極的に進めています。会社選びにおいても、「社会のために働くこと」を意識する人が増えてきました。
(※ソフトバンクグループの孫正義社長が、2011年の東日本大震災発生直後に、被災した地域の自治体や非営利団体等に100億円の寄付を実施した)
長く消費者に愛されたり、社員の意欲を高めたりするには、社会との向き合い方が重要なポイントになっているのです。
SOSが出せない家庭にも、支援を届ける
駒崎:社会とどう向き合うかを行動で示すことが、企業にとって大切なことなんですね。
藤沢:配送に協力してもらっているココネット株式会社(以下、ココネット)は、まさにそれを体現している企業です。
(※「こども宅食」は、セイノーホールディングス株式会社(以下セイノー)と提携しています。食品の配送は、セイノーの子会社で、買い物ができない家庭に食品を配達し、家庭を見守るサービスを行うココネットが行っています。)
彼らとの出会いは、本当に大きかったです。
これまで様々な形で「子どもの貧困」に対する支援が行われてきましたが、「周りの目が気になることでSOSが出せず、サポートを受けられない家庭」が多くありました。
SOSが出せない家庭には、「周囲の人に違和感を持たれないように支援を届け、家庭を見守る」関係性を築く必要があったのです。
ココネットの食品配送の仕組みや「見守り」のシステムは細やかで、「どのように家庭に食品を届けるか」「どのように家庭を見守るか」という視点で、なくてはならない存在でした。
ココネットからも「こども宅食を通して地域に溶け込むことで、サービスを提供しやすくなる」という声をいただいています。お互いにとって良い関係を築けると確信しています。
企業が社会問題解決のためにできること。選択肢は一つじゃない
駒崎:「社会課題を解決する事業を行うのは、ハードルが高い」という企業もありますよね。そういった企業が、課題解決に関わる方法はありますか?
藤沢:例えば、CSRの一環で、ボランティア休暇を取り入れる企業も増えてきました。そういった関わり方も一つの手かもしれません。
また、自分たちが普段作っている商品が、社会にどのように影響を与えているのか実感できるという意味では、社会的な取り組みに自社の商品を寄付するとよいかもしれません。
「こども宅食」でも、ボランティア参加プログラムを受け付けていますし、食品のご寄付も受け付けています。
駒崎:企業として色々な関わり方ができるのも「こども宅食」の特徴ですね。
企業・行政・NPOが一体となって事業を進めることで、支援者同士のネットワークが生まれます。結果として、支援の選択肢を広げられたり、文京区を超えて、より多くの人々に支援を届けることもできるようになります。
藤沢さん、今日はありがとうございました。「こども宅食」を通して、多くの家族をサポートする仕組みをつくっていきましょう!
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