駒崎 弘樹 公式ブログ 提言・解説・アイディア

2017衆院選「子ども子育て」公約比較

 内閣府子ども子育て会議委員の、認定NPO法人フローレンス代表の駒崎です。

 本日は現場で保育・子育て支援事業を営む立場から、そして有識者会議で政策審議に携わる立場から、衆院選各党の子ども子育て政策について比較・解説します。

 

【自民党】

●人づくり革命

・子育て世代への投資、社会保障の充実、財政健全化にバランスよく取り組みつつ、「人づくり革命」を力強く進めていくため、消費税率10%への引き上げに伴う増収分などを活用した2兆円規模の新たな政策を本年末までにとりまとめます。

・幼児教育の無償化や介護人材の確保などを通じてわが国の社会保障制度を全世代型社会保障へ大きく転換するとともに、所得の低い家庭の子供に限った高等教育無償化やリカレント教育の充実など人への投資を拡充し 、「人づくり革命」を力強く推進します。

・意欲と能力のある子供たちが経済的理由により専修学校や大学への進学を諦めることのないよう、授業料の減免措置の拡充や給付型奨学金の支給額を大幅に増やすことで、真に支援が必要な所得の低い家庭の子供に限って高等教育の無償化を実現します。併せて徹底的な大学改革に取り組みます。

・2020年度までに、3歳から5歳まですべての子供たち、低所得世帯の0歳から2歳児の幼稚園や保育園などの費用を無償化します 。 また 、 待機児童解消に向けて 、「子育て安心プラン」を前倒しし、2020年度までに32万人分の保育の受け皿整備を進めます。

●女性活躍

・ひとり親家庭に対し、仕事と子育ての両立支援、孤立化させないための居場所の確保などの支援を拡充します。

・家事や子育ては女性が担うべきとする古い意識や風土を改め、「イクメン」や、妊娠・出産した本人やその配偶者の働き方を適切に管理する「イクボス」も含め、男性の意識改革と職場風土の改革を進めます。男性の育児休暇の取得及び家事・育児への参画の促進に取り組みます。

●社会保障

・生活保護世帯の子供の進学支援の強化など生活困窮者の自立に向けた支援や子供の貧困対策を強化します。

 

 まずは与党自民党から。消費税増税分5兆円のうち2兆円を使った「教育無償化」がメインにあげられています。

 中身はというと、高等教育は「所得の低い家庭の子どもに限った」もの、0-2歳も「低所得世帯」に限って、そして3-5歳については「すべての子どもたち」を無償化という方針のようです。

 教育に力を入れるのはとても良いことで、全世代型社会保障への転換についても大賛成です。

 けれど、3-5歳の「すべての子どもたち」に無償化することは、反対です。

 ◆幼児教育「無償化」よりも必要なもの

https://news.yahoo.co.jp/byline/komazakihiroki/20171002-00076450/

 こちらでも述べましたが、保育園保育料等はすでに低所得者世帯は安く受けられるようになっていて、ある程度支払っているのは高所得者層です。一方、待機児童問題はいまだに解決されていません。

 そして待機児童問題よりも輪をかけてインフラが足りていないのが、病児保育・一時保育・夜間保育・障害児保育などの「保育サービス」です。

 無償化のお金があるのであれば、今足りていないインフラにその予算を投下するのが筋。

 無償化したら、なおさら足りなくなるではありませんか。

 というわけで、看板の幼児教育無償化を考え直して!「無償化よりも全入化を!」というのが僕の願いです。

 

【公明党】

1 教育負担の軽減へ

(1)幼児教育無償化の実現(0~5歳児すべて)

・幼児期における教育の重要性に鑑み、待機児童解消への取り組みの加速化と合わせて、2019年までにすべての幼児(0~5歳児)を対象とした幼児教育、保育の無償化の実現をめざします。また、その担い手である幼稚園教諭・保育士等の処遇改善をはじめとする人材確保策を図ります。

3人を育む政治の実現へ

(1)待機児童の解消、子育て支援の充実

 ・待機児童を解消するため、「子育て安心プラン」を前倒して実行し、小規模保育や企業主導型保育など保育の受け皿を約32万人分拡大します。また、保育士が働きやすい環境を整備し、保育人材の確保を進めます

 ・家族の負担を軽くするレスパイトケア(一時的に介護や育児から解放されリフレッシュするための支援サービス)のための拠点整備や、訪問看護の活用などを通して、医療的ケアが必要な子どもへの支援を拡充します。

 ・親がいない、または親が育てられない子どもたちに原則、家庭養護を優先し、児童養護施設等においては専門的なケアや自立支援の拡充を図ります

 ・女性の貧困や失業、離婚後の母子家庭の問題、児童虐待等が社会問題化する中、現行の婦人保護事業を抜本的に見直し、支援を必要としている女性のセーフティネットを再構築します。

 ・児童虐待を防止するため、児童相談所の設置や体制強化を推進します。

(5) 保育や介護従事者の賃金引き上げなど処遇改善、キャリアアップ支援

 ・保育士・介護福祉士など介護従事者・障がい福祉サービス等の従事者といった今後の福祉人材の確保のため、賃金引き上げやキャリアアップ支援等の処遇改善や専門性の確保など総合的な取り組みを進めます。

 

 さすが福祉政党。「今福祉で弱いところ」をしっかりと認識している、つまりは「分かってる感」が出ています。

 例えば待機児童解消の部分で、自民党が単に「子育て安心プランを前倒しする」ということしか言っていないのに対し、「小規模保育や企業主導型保育など」ということで、機動的な手段を並置しています。

 さらには女性の貧困等の問題に対し、マニアックな「現行の婦人保護事業」に着目しています。婦人保護事業は戦後制定された売春防止法が根拠法となっていて、それがゆえに時代に全くあっておらず、せっかく婦人保護施設が全国にあるにも関わらず、効果的な支援ができていません。

 これを変えていこう、ということを言っているわけで、DV被害者支援やひとり親支援を加速できる可能性があります。

 公明党の議員さんは、一番現場に足を運んでいる印象があり、そういう「現場に身を置く」ことが、政策から「そこじゃない感」を払拭し、「分かってる感」につながっていくのでしょう。

 惜しむらくは自民党同様「保育・幼児教育無償化」を謳っていること。ただでさえ貴重な財源は、票集めのための無償化ではなく、足りない保育インフラ充実のために使ってください。

 

【希望の党】

5. 雇用・教育・福祉に希望を ~正社員で働ける、結婚できる、子どもを育てられる社会へ~

・長時間労働に対する法的規制、男性を含めた育児休暇取得の支援などにより、柔軟な働き方を社会全体で支えていくことを通じ、ワークライフバランスのとれた社会を実現する。

・「待機児童ゼロ」の法的義務付け、病児/病後児保育の充実、配偶者控除を廃止し夫婦合算制度へ移行(再掲)、同一価値労働同一賃金など、女性が働きやすい社会を創る。

・幼児保育・教育の無償化、大学における給付型奨学金の大幅拡充により、格差の連鎖を断ち切る。

 

 待機児童ゼロだけでなく、病児保育にも触れていることがプラスのポイント。妻に「働いたら損」という意識を植え付ける、時代遅れの遺物、「配偶者控除」をやり玉にあげたことも良い点です。

 ただ、いきなりの解散で政策をまとめる時間がなかったのでしょうが、3つしか子ども子育て政策がない、というのも寂しいものです。課題はもっともっとあるんですから・・・。

 

【立憲民主党】

1 生活の現場から暮らしを立て直します

・保育士・幼稚園教諭・介護職員等の待遇改善・給与引き上げ

・児童手当・高校等授業料無償化とともに所得制限の廃止

3 個人の権利を尊重し、ともに支え合う社会を実現します

・子どもに引き継がれてしまう貧困の連鎖を断つための教育生活支援、虐待をなくすために児童相談所や児童養護施設、民間団体との協働を強化

 

 保育士の処遇改善にいの一番に言及しています。

 現在の保育園増設の最大の障害のひとつが、保育士不足。その中心的な要因は給与の低さです。

 そこをちゃんと認識し、切り込んで行こうという姿勢はとても良いです。

 一方で、分裂・結党等で時間がなかったのでしょうが、カバーしている政策範囲はやはり狭いので、ぜひ選挙が終わったらその辺り充実させてほしいところです。

 

【日本維新の会】

教育・子育て・労働・社会保障

 1経済格差が教育格差とならぬよう教育機会平等社会を実現する。

 2教育予算の対GDP比を他の先進国並みに引き上げる。

 3幼稚園や保育園をはじめ、全ての教育を無償化する。

 4保育士給与の官民格差を是正し民間保育所の保育士の待遇を改善する。

 5保育サポーター制度を導入する。

 

 「教育予算の対GDP比を他の先進国並みに引き上げる」というのは良いですね。今は先進国の中で最低なので。

 ただ、それが「全ての教育を無償化する」ことに使われるとなると、暗澹たる気持ちになります。

 繰り返しますが、低所得世帯は無償化で良いですが、高所得世帯は無償化の優先順位は低く、そこに投下するお金は決定的に不足している保育・教育インフラに投下すべきです。

 学校教育においても、中学校での給食実施率は88%です。100%じゃないんです。

 弁当を持ってこさせるのは一番、家庭格差が出てしまう手法です。高所得者層まで無償化するのだったら、「完全給食実施」を先にすべきじゃないでしょうか。

 また、「民間保育所の保育士の待遇を改善」することと、おそらくは無資格の「保育サポーター制度」の導入は矛盾します。

 なぜなら、有資格者よりも無資格者は給与が低く、それによって人件費がセーブできるのなら、経営者はそちらにドライブがかかります。それによって、賃金は下方に押し下げられます。

 政策がちぐはぐで、本当にちゃんと考えているのか疑問です。

 

【社会民主党】

4 子ども・若者に居場所と希望を

〇子ども・家族関係の社会支出を拡大し、子ども・家族政策を底上げします。「結婚から妊娠・出産、子育てまで」寄り添いながら切れ目のない支援を講じる日本版「ネウボラ」をすすめます。

〇保育料や幼稚園授業料の負担軽減を図りつつ、無償化をめざします。

〇保育の質の向上と量の拡大を車の両輪ですすめ、「待機児童ゼロ」を実現します。国公有地等の活用などもすすめます。企業主導型保育所の拡大にストップをかけます。

〇障がい児保育、病児保育、一時保育などの体制を整備します。インクルーシブ教育をすすめます。

〇保育士等の給与を当面月5万円引き上げるなど、保育・幼児教育従事者の待遇改善を図り、人材養成・人材確保をすすめます。

〇学童保育の量的な拡大と質的な拡充、指導員の処遇の改善に取り組みます。

〇子どもの貧困と児童虐待を防止するための切れ目のない支援体制をつくります。

〇ひとり親家庭の就労環境の改善、児童扶養手当などの充実、仕事と子育ての両立支援策の拡充、非婚のひとり親に対する寡婦(夫)控除の適用拡大などに取り組みます。

〇子どもの相談・救済機関となるチャイルドラインの拡大、「子どもオンブズマン」の実現に取り組みます。子どもの居場所づくり、学習支援、「子ども食堂」など地域の多様な支援を促進します。

〇子ども・子育て政策を一元的にすすめるとともに、若い世代の声を行政に反映させ、若者政策を総合的に推進するため、「子ども・若者省」の設置を検討します。

 

 社民党には、「なんでも反対してばかりの少数野党」というイメージがつきまといますが、なかなかどうして子ども子育て政策は極めてまともです。

 特に「障害児保育、病児保育、一時保育」等の、決定的に不足している保育サービスインフラにちゃんと言及しているのは良いです。

 ただし、彼らも与党の「幼児教育無償化」にひっぱられてしまい、無償化をうたってしまっているのはマイナス

 それよりも、量の拡大と質の追求、という部分を深掘りして行けば、キラリと光ったのに、と惜しいです。

 

【共産党】

(膨大につき一部抜粋)

1、子育ての経済的負担を軽減し、安心して暮らせる社会にします

 ・児童手当の拡充などをすすめます

 ・子どもの医療費無料化を国の制度にします

 ・学校給食の無償化をめざし、中学校給食をすすめます

 ・保育料、幼稚園授業料の無償化を、待機児童解消とともにすすめます

 ・ひとり親家庭への支援をつよめます

2、安心して働き、子育てできる環境を整えます

「公立も含めた認可保育所の増設」「保育士の賃上げと配置基準の引き上げ」で待機児童をなくし、安心して預けられる保育を保障します

 ・学童保育を量的にも質的にも整備し、子どもたちが安心して過ごせるようにします

3、子どもの命と健康を守り、子育ての不安を解消します

 ・児童虐待防止対策をつよめます

 ・相談体制、児童福祉施設、里親などの整備・拡充をすすめます

 

 共産党は、分量が多すぎて政策を書ききれないくらいでした。その情報量と情熱には感服です。

 政策については相変わらず、「実現性はないけれど、そうなったら良いね」という、永遠に近づけない北極星を示す役割に徹しています。

 彼らの特徴は「公立も含めた認可保育所の増設」です。政治用語で「公立も含めた」という場合は、公立保育所を増やしたい、という意味になります。

 確かに小学校はほぼ全て公立で、先生方は公務員なので、ロジックとして「そういう世界」もあり得ます。

 ただ、現実的には公立保育園を増やす財政負担は難しいし、そこにかけるのであれば、量の拡充にかけるべきなので、「減らさずに、よりソーシャルワークが必要な子どもたちが優先的に公立園に入る」という状況を目指していくのが現実的かなと思います。

 

【日本のこころ】

 基本政策

1. 我が党は、家族を基底においた温かな社会を創り、国民ひとりひとりが夢を持ち、充実した日々を過ごせる国の実現を目指す。

2. 我が党は、人口が減少する中で、子育て世代を支援し、安心して子供を産み育てられる環境の整備を目指す。

 

 もう、政策というより、スローガンですね。2行です。びっくりです。

 

【まとめ】

 というわけで、みなさん、いかがでしたでしょうか。参考になれば幸いです。

 今回、「大義がない」「なんで選挙するのか分からない」という声が多々ありますが、その気持ちは分かります。

 一方で、選挙で勝った政党が、これらの政策を「支持された」とみなし、実現に向けてひた走ってしまうのも事実です。

 だとするならば、どんなに大義がなかろうが、くだらないと思っていても、政策を見て、1ミリでもマシな政党に入れる責務はあるように思います。

 日本が抱える最大の課題の一つ、少子高齢化の解決に、数少ない我々ができることの1つが「投票」なのです。

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