キセキプロジェクトから始まったhugphotoが「写真」で保育にもたらす新しい価値とは?
保育園と保護者をつなぐ連絡帳サービスにおいて、現在シェアナンバーワンと言われる「hugmo(ハグモー)」。
保育士の事務業務の負担を極力削減し、保護者が受け取る情報の質を高めることをIT技術で実現したhugmoが、全く異業種のフォトグラファー石田直之氏を起用して新サービス「hugphoto(ハグフォト)」を企画するに至った背景とは。
認可保育園18園を運営する認定NPO法人フローレンス代表駒崎弘樹が hugmo社長の湯浅重数氏、フォトグラファー石田直之氏にインタビューしました。
インタビューの前編はこちら
IT導入で業務・手間削減はあたりまえ!シェアナンバーワンのhugmoが提供する新しいバリューに迫る
プロフィール
●駒崎弘樹(写真向かって左)
認定NPO法人フローレンス代表理事
2004年日本初の訪問型病児保育事業でフローレンスを設立。病児保育、障害児保育、小規模保育等、事業を通じて社会課題の解決を推進し政策提言を行う。小規模認可保育所「おうち保育園」、認可保育園「みんなのみらいをつくる保育園」運営。公職に内閣府「子ども・子育て会議」委員など。二児の父。
●石田直之(写真中央)
株式会社イシダスタジオ代表 フォトスタジオism(イズム)代表/キセキproject主宰者
兵庫県姫路市の1937年創業の写真館を継ぎ2004年より代表に。カジュアルフォトの先駆けとして2006年に同市にフォトスタジオ「ism」開館。大人のための写真文化を創造する「キセキproject(http://www.kiseki-project.com/)」のハグフォト撮影を全国展開する中で株式会社hugmoとタイアップ。二児の父。
●湯浅重数(写真向かって右)
株式会社hugmo (ハグモー)代表取締役社長
2003年ソフトバンクBB株式会社(現ソフトバンク株式会社)入社。技術本部アクセス技術部長の後、 IT統括 ITサービス開発本部 アプリケーション&コンテンツサービス統括部 統括部長などを歴任。ソフトバンクグループの新規事業提案制度に応募してhugmoを事業化、2016年11月株式会社hugmo設立。2016年より現職。二児の父。
フォトグラファー石田直之氏が始めたキセキプロジェクトとは
駒崎:いよいよhugphotoの全貌が明らかになりますね…!
兵庫県姫路市で写真館をされていた石田さんが、どのようにhugmoに関わることになるのか。フォトグラファーの石田さんが活動領域を拡げていった経緯を伺えますか。
石田:私は今45歳で長男が14歳、次男が8歳なんですが、長男は500gという超未熟児で産まれたんです。3月産まれの予定が11月に産まれたので、産まれた時にはまだ目も形成されておらず、医者には明日死ぬかもと半年間言われ続けました。退院してからも、3歳になるまで歩かない、しゃべれない。小学校低学年まで発達支援学級を勧められました。
彼が産まれてから、私は自分の子どもと家族の写真を毎日夢中で撮り続けていたんです。
その中で気づきがありました。
石田:当時、家族写真といえば、七五三などイベントの時に全員正装でかしこまって撮る写真館、あるいはチェーン展開する子どもフォトスタジオの二択しかなかった。でも、写真で本当に残したいのは家族の日常ではないだろうか?って思ったんです。
私の家は81年続く写真館なんですが、家族の日常を残すための写真館を作りたいと思い、11年前の2006年にカジュアルフォトスタジオ「ism」を立ち上げました。折しも一般の人がデジカメで日常を撮るようになり、ナチュラルな日常を撮影する「カジュアルフォト」というスタイルの専門スタジオも時代に受け入れられていったんです。
駒崎:今ではカジュアルなスタジオも増えましたが、石田さんは時代に先駆けて家族の自然体を残すことを提案されていたんですね。
石田:ismをオープンした頃に父が倒れました。生前元気な時に撮影した日常写真が、結局父の遺影となったのですが、親父の自然な写真を残しておいて良かったなと思いました。
そのことをきっかけに、大人のためのカジュアルフォトを提案する「キセキプロジェクト」をスタートさせました。2012年のことです。
駒崎:キセキプロジェクトというのは大人のカジュアルフォトを撮ろうというムーブメントなんですね。キセキプロジェクトというネーミングの由来は?
石田:2011年東日本大震災があり、私も被災地支援に入りました。被災地で人々が何より大事にしていたのが、写真でした。亡くなった人が生きていた証拠であり、その人が生きてきた軌跡こそが写真でした。
子どもが小さく産まれ、親父を亡くして、東日本大震災があって……人がそこにいるという事実が奇跡だ、と。そしてそのミラクルの軌跡を残しておけるのが写真なんだという意味を込めました。
このキセキプロジェクトから生まれたのが、「hugphoto(ハグフォト)」なんです。
キセキプロジェクトは全国各地のフォトグラファーに呼びかけて、最初は父の日、母の日、クリスマス、バレンタインなど記念日のイベント的に街なかで撮影会をやりはじめたんですが、ひょんなことから8月9日が「ハグの日」だっていうのを知って、その日に大人のハグ写真を撮るイベントをやってみたんです。そしたら、お客様の反応が他の記念日イベントより断然良くって。
「ハグしてくださーい」といってカメラを向けると、みんな一瞬で笑顔になれる。みんなめちゃめちゃ楽しんでくれる!これは魔法の言葉の撮影だなと思い、キセキプロジェクトの撮影イベントを「ハグフォト」のタグラインでやることにしました。
hugmoの写真サービス、hugphotoは偶然の出会いから
駒崎:ハグフォトにたどりついた石田さんが湯浅社長に出会われたのはどういう経緯ですか?
石田:去年2016年の11月くらいにソフトバンクから電話があったんです。何かの営業電話かな?と思ったら、私が取得していた「ハグフォト」という商標から辿り着いて、実は同じ名前のサービスを考えているので会ってお話できるか?という問い合わせでした。
「すぐ行きます!」と東京に飛びました。湯浅さんと会って聞けば、保育のアプリだという。自分のやってきた「大人の日常写真を残したい」というコンセプトとは違ったけれど、湯浅さんの想いや、保育の現状を聞いたら、働く保育士さんを写真で輝かせることができるのではないかと思うようになりました。
湯浅:hugmoの立ち上げにあたり、hug(ハグ)をキーワードにした様々なサービスを企画していた時です。たまたま「ハグフォト」って検索して石田さんを見つけた。商標を既に取得されていて、なんとなく石田さんに縁を感じたんですよね。
プロカメラマンを派遣してほしいというご要望は園からものすごく多いんです。hugmoから派遣するカメラマンはハグフォトとしてブランディングして、楽しくわくわくする素敵な写真を提供できるサービスにしよう!と思いました。
石田さんのハグフォトは大人を撮影するっていうコンセプトだから、子どもたちの写真だけでなく保育士さん達の姿も写真に残せる、化粧っ気もなくて泥だらけになったり走り回って一心に子どもたちと向き合う保育士さんたちは、そのまま撮ってもものすごく美しくて、一瞬を切り取るだけでその仕事の尊さが伝わります。保護者や子どもたちにそれを見てもらえます。
▲撮影協力:株式会社日本保育サービス
子どもだけでなく保育士を被写体にする理由
駒崎:新生ハグフォトはhugmoを導入している園に、ハグフォトとしてブランディングされたプロカメラマンが派遣されてお子さんや保育士さんを撮影してくれる、それをアプリから買えるということですね。
湯浅:そうです。石田さんがキセキプロジェクトを通じて全国に広げているカメラマンのネットワークを中心に各園に派遣します。カメラマンにはナチュラルでいて一生の宝物になるような石田流の撮影方法を教育して同じ形で撮っていきます。
保育士さんて、僕もそうなんですけど、お母さん以外に初めて接した女性で、子どもが大きくなった時に憧れの記憶として残る大切な人じゃないですか。
駒崎:僕も今でも保育園の時好きだった先生のこと、覚えてます。
湯浅:子どもの時好きだった先生に憧れて保育士を目指す人も多いですよね。先生の写真も、子どもたちにとってとても大切な一枚になると思います。
駒崎:親御さんからの反応はいかがですか?
湯浅:親は、お世話になっている先生への感謝の気持ちがすごく強いんですね。親子にとって大切な人だから、写真が欲しいと言われます。
先生本人にもすごく喜んでもらってます。「仕事中は夢中で自分のことに全く意識がないけど、写真で見て新しい自分の姿を発見できた。自分が少し誇らしい」って。
カメラマン業界の現状と課題に切り込む
駒崎:異業種だったお2人によって新しいサービスが生まれたということですね。
写真アプリや写真サービスは保育園業界で既に広く取り入れられていましたが、ハグフォトの面白いところは、保育士さんが日常撮影した活動記録も購入できるし、プロカメラマンが撮影したものも買えるところですね。
湯浅:この緑の方が日常保育士が普段撮影しているもので、紫の方がプロカメラマンがアップロードするものです。
石田:園には既に他社のカメラマンが入っている場合が多いので、私たちはその仕事を奪うつもりはありません。ハグフォトイベントでの撮影という形でまずは単発で入らせてもらい、もし親御さんに喜んで買っていただければまた呼んでもらう仕組みです。
今、カメラマンてすごい数存在するんですよ。資格が必要な職ではないですし、デジカメの技術もあがっているのでクオリティはまちまちですが誰でもカメラマンになれます。でも、親御さんたちは、やはり自分の子どもが作品レベルのクオリティで撮られたのを見ると、それが欲しいと言われます。
湯浅:保育園のカメラマンは儲からないので、だんだん質が下がる方向にあるという問題があるんです。
石田:そのあたりは保護者の立場の意見も、カメラマンの立場の意見もわかるんですよね。
保育園の中で我が子がどんな活動をしているか、親としては写真が欲しいし、良いものを買いたいと思う。一方で、カメラマンたちはギャラが安くて続けられないという業界の構造的な問題があります。需要があるのに供給できないという悪循環が起こっているのをなんとかしたいという想いもありました。
駒崎:なるほど、園に派遣されるカメラマンさんの収入が割に合わない……?
石田:カメラマンたちは一日イベントに張りついて撮影しても、例えば3000円分しか写真が売れないとなるとやる気がなくなります。そして、仕方なく撮ってるものは更に売れないという負のスパイラル。
カメラマンたちも稼げる、楽しくやる気をもってプロの仕事ができる、という風にしなければと思い、クオリティの普及に努めています。
駒崎:すごい。カメラマンの仕事もつくり、写真の質も上がり、子どもたちの思い出の質も上がるという仕組みがハグフォトなんですね、色んなストーリーがあるな。
これからの保育業界、ICTでどう変わる?
駒崎:湯浅社長は今後、保育×ICTでどんなことをしたいですか?
湯浅:まず早急にやらなければならないのは、保育士の業務負担を減らすことです。子どもがどこにいるか、なんていうのもIoTがあれば見失いを防げます。こうした技術は、保育士が子どもに関わる時間を増やすことにつながります。
アプリで園バスの到着時間が分かるというのは既にやっていますが、ネット上で便利に物品購入ができるサービスを強化したいです。
働く女性の子育てが楽になる、保育士も業務負担が減る、そんなサービス作りに目下取り組んでいきます。
駒崎:AI技術については、どんなことができそうでしょうか?
湯浅:AIを取り入れるのはおそらく先だとは思いますが、例えば子育てで悩んだ時に子どもの写真を撮ったら表情を解析してくれて、「子どもはこんな気持ちかもしれないですよ」と月齢によって関連情報が出てくるとか。
子育ての知識がない初めて育児するお父さんお母さんや祖父母、さらには若い学生さん達が保育を学べて、みんなが保育に関わることができる、そんな可能性を広げていきたいですね。
駒崎:介護の世界ではサイバーダインのロボットスーツを取り入れて、介護士の肉体労働の負荷を軽減することが試みられていますが、保育現場ではどうでしょうね?
湯浅:AIやロボットに関してはどこにフォーカスしていくか、に注目したいですね。
サイバーダインのようなアシスト機能も然りですが、ロボットについては世界中の保育の現場で今注目されていて、シンガポールなど海外では保育現場にロボットが非常に親和性高く取り入れられ始めています。
保育をラクにする、豊かにするだけではなく、僕は子どもたちが小さな頃からロボットに親しみを持って触れることに可能性を感じます。ロボットと人間は対立するのではなく、当たり前のように生活の中にロボットがあることが未来につながるし、これからのロボット技術が進んでいく土壌になると思います。
ハグフォトのクオリティはやはりスゴい!
駒崎:石田さんの今後の活動はどんな方向になりそうですか?
石田:キセキプロジェクトは大人の人を対象に「大人の写真文化」を提案するものでしたが、湯浅さんと出会ったことで「働く女性」という新しいコンセプトができました。
保育士さんを撮ることからスタートしましたが、これから保育現場に閉じず、いろいろな現場で働く大人を撮っていきたいと思います。
働くお父さんお母さんの写真も、子ども達に見せてあげたいなと夢見ています。
駒崎:素敵ですね。
では最後に石田さんの撮影した写真と僕が撮影した写真を比べてみましょう!
<駒崎撮影写真>
<石田さん撮影写真>
湯浅・駒崎:うわーーーーーーー!!笑
駒崎:プロカメラマンが撮影するクオリティ、やはり素人には真似できませんね……。
保育現場に限らず、ITを取り入れることはもはや当たり前になっていますが、そこに異業種を組み合わせたり、別のプロフェッショナリティを加えることで新しい付加価値が生まれるんですね。
湯浅社長、石田さん、今日はありがとうございました。
(了)
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