「改正児童扶養手当法」成立の意義と、これからの課題
妻の実家である福島県に帰省中ですが、連休中の方が子どもと遊ぶ量が増えるので、平日より疲れる、という経験をしている駒崎です。
さて、2日の参議院本会議を通過し、改正児童扶養手当法が成立しました。
「手当を増額 改正児童扶養手当法が参院本会議で成立」 | NHKニュースhttp://bit.ly/1THJhN4
この児童扶養手当法の改正をし、児童扶養手当を増額すべきだと、「ひとり親を救え」ネット署名キャンペーンで主張した身として、今回の法律の成立意義について解説したいと思います。
【そもそも何が問題だったの?】
児童扶養手当は、低所得のひとり親に支給される給付金で、ひとり親の命綱と言われています。
子どもが1人いる場合には、最大約4万2000円が給付されるのですが、2人目の子どもには、5000円しか給付されませんでした。3人目だと3000円。それがひとり親の貧困率54%という状況を生み出している、ひとつの要因となっていました。
そしてひとり親の貧困は、子どもの貧困に直結するのです。
【何が変わったの?】
その状況をなんとか打開しようと、「ひとり親を救え」ネット署名キャンペーンを賛同人の方々と共に、2015年10月に行いました。その結果約3万8000筆もの署名を頂き、菅官房長官にお渡しすることができ、結果として児童扶養手当の2人目以降加算額は、2人目は5000円から1万円、3人目は3000円から6000円と倍増して頂くことに、12月21日の大臣予算折衝で決まりました。
児童扶養手当は児童扶養手当法という法律で金額も含めて決められているので、法改正が必要です。今国会にその改正法案が提出され、この5月2日に国会を通過し、晴れて成立となったわけです。12月支給分から、増額される予定です。
【意義と課題】
さて、2人目の給付金が増額されたのが36年ぶりで、対象世帯が43万世帯にのぼるということで、ひとり親の生活改善という意味においては、意味のある一歩であったと思います。
しかし、実際の貧困率の削減インパクトはどの程度であったでしょうか。
報道によると、ひとり親の貧困率が54%なのに対し、0.9%の削減インパクトに過ぎません。
また、対象世帯も子ども2人目が約33万世帯、3人目以降が10万世帯と、手当てを受けるひとり親世帯の4割でしかない、という点も課題です。
【思いがけない前進】
一方、今回、児童扶養手当の増額に隠れてはいますが、もう一つ前進したことがあります。
それは4ヶ月に1回の児童扶養手当の「まとめ支給」について国会内で議論され、民進党が出した「毎月支給案」は否決されましたが、付帯決議(法的拘束力はないけど、今後詳細を詰めていく時に気にしないといけない視点や方針の表明)には「支給回数を含め、改善措置を検討する」などの文言が盛り込まれました。
【「まとめ支給」の問題】
「別に4ヶ月に1回でも半年に1回でも、もらえれば良いじゃないか」という指摘はありますが、ご自分の給料の振込みが4ヶ月に1回だったら、と考えてみて頂くと分かるように、それは管理が非常に難しくなります。
(画像は朝日新聞の錦光山記者の記事より)
銚子市で、公営住宅退去の日に、娘を殺害したシングルマザーの家計調査があります。ここから分かるのは、まとめ支給のため、後半はキャッシュフローが厳しくなり、家賃を滞納し、それをまかなうために闇金から金を借り、その利子が積み上がっていく、という負のスパイラルです。
年金は2ヶ月に1回、生活保護は毎月支給なのに関わらず、低所得のひとり親向けの児童扶養手当は4ヶ月に1回という現実。このまとめ支給は、確実にひとり親の生活にダメージを与えているのです。
【管理できないのは自己責任?】
まとめ支給の議論では常に「管理できないやつが悪い」という意見が出ます。しかし、これは正しいのでしょうか。行動経済学者の大竹文雄先生との対談(http://bit.ly/1THFhfI)を引用します。
駒崎: 貧困の現場ではせっかくの給付金をギャンブルですったり、借金の返済に充てたりと、すぐに使ってしまう人がいます。官僚たちに、その話をすると「家計簿を付ければいい」と、一言で済ます。たしかにそうなんです。でも、それに対して「窮乏している人は、不合理な行動を取ってしまう」と説明しても、いまいち”優秀”な官僚には届かないんですよね。
大竹: 優秀な官僚だって、次々と締め切りに追われたら、目先のことしか考えないはずですよ(笑)。誰もが切迫感のある状況になると近視眼的になる。このことは多くの実験で明らかです。例えば、いつもはきちんとした子育てができている航空管制官でも、難しい飛行機の管制をした日は、家に帰って子どもを叱ってしまうという調査がある。自分自身をコントロールするための自制力が弱くなってしまうんですね。優秀な人も、仕事であまりにも集中して、それにエネルギーを使ってしまうと、他のところでうまく行動が取れないんです。
駒崎: そうか、負荷をつけ替えるんだ。
大竹先生が言及された、行動経済学で言うところの「トンネリング」(http://bit.ly/1THHGXL)は時間的に、経済的に窮乏している人たちには「誰しも起こる」ことを表しています。
こうした学問的に裏打ちされていることなのであれば、やはり4ヶ月に1回のまとめ支給は、ひとり親を無意味に窮乏させ、そこから銚子市のような殺人事件に繋がったり、生活保護世帯になっていったり、と余計な社会コストを増やすだけなので、すぐに改正すべきだと言えるでしょう。
【今後やるべきひとり親政策】
この改正児童扶養手当法が成立しても、ひとり親の貧困率は0.9%しか削減されないことは述べました。
では、どうやったらもっと貧困率が削減できるのでしょうか。
それに対して私は「養育費の支払い率の向上」と答えたいと思います。
別れた配偶者から支払われる養育費の支払い率は、日本では20%。アメリカは70%です。あまりにも低い。
そうなってしまう最大の原因は、支払わなかった時の罰則がないためです。
下品な言い方をすれば「バックれ放題」と言えるでしょう。
アメリカではパスポートや免許証が取れなくなったり、士業は開業できなかったりする、という罰則が大きく機能しています。
よって、日本でも滞納時の罰則規定を設ける必要があります。
また、別れた配偶者からの振込では不安定なので、裁判所が企業と連携し、給与から天引きするシステムを構築することも重要です。
さらには、配偶者が何らかの事情によって養育費が払えなかった際に、失業保険のように一定期間は国が養育費の一部を支払う仕組みをつくる必要もあるでしょう。突然収入源が絶たれてしまうことは、ひとり親の環境を激変させてしまうためです。
【最後に】
オンライン署名キャンペーンによって、ほんの少し制度を変え、40万世帯の人々の生活を少し楽にできたことは嬉しかったですし、協力してくださった多くの方々には、深く感謝しています。
しかし、これからも53%のひとり親の貧困率を下げるべく、声を上げ続けていかねばなりません。
離婚したら即貧困、という社会。特に女性がその割を食う社会は、あまりにも不公正です。
そして親が2人でも、1人でも、親がいなくても、どんな境遇に生まれようと、子ども達が等しく機会を得ることができ、笑って暮らせる日本社会にするためにも。