駒崎 弘樹 公式ブログ
提言・アイデア
かつてこれほど「体温とともに」貧困支援の現場を描いた本が、あっただろうか:大西連「すぐそばにある貧困」
9年前に当時の総務大臣はこう言った。
「社会的に解決しないといけない大問題としての貧困は、この国にはないと思います」と。
子どもの6人に1人が貧困状態にある今、政治家がこの発言をしたら、瞬間的に引火するだろう。
しかし、たかが9年前の時点で、それは自明のものではなかったのだ。
このあまりにも急激な日本社会の変化に、目がくらむ。
本書は普通の若者が、如何にホームレス支援の現場に踏み込んでいったのか、そこでの支援の有り様を通して、貧困とは、ホームレス支援とは、生活保護とは、ということを体感的に理解する支えになってくれる。
体感、と書いた。そう、貧困や生活保護について書かれた書籍は多い。しかし、その多くは正しくて、難しく、遠い。
勢い、ホームレスや貧困層が「彼ら」で、読み手は「我々」という位置のまま、我々は貧困という事象を眺める。
しかし本書は一人称で、普通の若者が何となく踏み込んじゃったという体験記である性格から、語り手である著者と「共に」ホームレスのサトウさんやパッと見ホームレスに見えないイケメンくんと、相対することができる。
向こうとこっちに違いなんて大してなくて、僕たちが大文字と数字で語る生活保護も、役所の窓口のおじさんとの会話というインターフェースとして肉付けされる。
そして読者は驚くに違いない。ホームレス支援や貧困支援に携わる人々が地道な活動をせっせとやることで、はじき出された何人ものサトウさん達が、少年達に火をつけられないで生きていけていることに。
「制度と役所に任せておけばなんとかなる」わけでは全くない、この世界の片隅の実相を、垣間見るのだ。
読んで損はない。私たちが快適に暮らす日常の、ほんの路地を曲がった向こうに、我々が新聞で読み理解していた貧困の世界がゆらゆらとあって、うっかり曲がったら自分も「あっち側」に行くんだ、ということを知ることができる。
本書はそんな、稀有な本なのだ。
すぐそばにある「貧困」 大西 連