駒崎 弘樹 公式ブログ 提言・アイデア

隊長、よくぞ聞いてくれました。休眠預金活用に関する、やまもといちろう氏への返信2

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先日4歳の娘が保育園の若い綺麗な先生に「うちのパパ、カッコイイでしょ?」と尋ね、先生がうんと答えるとあろうことか「どこがカッコイイ?」と追加質問してしまい、先生から「まつげ」という微妙な答えが返ってきたことを聞き、涙目の駒崎です。
さて、先日やまもといちろうさんから、休眠預金活用の件でご指摘を頂き、それに返答し、さらにそれに対して質問を頂きました。
これを見て、隊長(やまもといちろうさんのニックネーム)、よくぞ聞いてくれました、と僕は思いました。
そして思うにこのアイディアは、保守であるやまもとさんにこそ賛同して頂きたいものである、と。
なぜなら、この法案は「多くの同胞達を、政府を大きくせずに救えるものである」からです。
【休眠預金活用法案って、そもそもどんな法案?】
僕と隊長のやりとりをご覧の方々は、ちょっと技術的でよく分からない、という思いを持たれる方もいるでしょう。
なので、すごく簡単にこの法案をまず解説します。
①「休眠した預金はいつでも返すよ!」な仕組み
これは政府が国民の預金をボッシュートして勝手に使う、というものではありません。
10年使わずに放置すると皆さんの預金は休眠預金化し、銀行の雑収入に計上されますが、7割近くは永久休眠してそのまま銀行の金庫の中です。
現在は銀行側の努力で、皆さんがふと思い出した時に、いつ預金を引き出しに来ても返していますが、その仕組みは続行します。なので、国民は全く損をしません。
②休眠した預金を「困っている人を助ける」ことで「国民に返す」よ
休眠した預金は、一部を除き結局永久に銀行の金庫の中にあり続けるわけです。
これはとてももったいないですし、国民に返していくべきお金です。
とはいえ預金者は完全に忘れていたり、連絡が取れなかったり亡くなっていたりするので、預金者当人には返せません。
よって、違った形で国民に返していく。
それはすなわち、
里親や養護施設から18歳で卒業しなくてはならず、専門学校や大学に行けない被虐待児への奨学金や、
次の大震災の際に、迅速に被災者を助けたり、震災遺児への奨学金をすぐに出せるような基金であったり、
希少疾患でペイしないことから、製薬会社が研究開発をしないでいる病気に対し、研究助成をだしたり、
これまでの政策では救えなかった国民同胞達に手を差し伸べるものとして、利用していくことで国民に返していくということです。
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③政府を大きくさせないで、人を救う仕組み
ただしこういう意見もあるでしょう。「それだったら、休眠預金を政府予算に入れ込んじゃえ」と。
確かにそこから福祉サービスや奨学金を提供していくことも一案でしょう。
しかし、政府や行政が本当に効率的・効果的にこのお金を使えるでしょうか?
今でも多くの無駄なお金が、無駄な事業に使われているのは、新国立競技場の一件を見ても明らかです。
政府は大きすぎ、そして現場から遠すぎることで、本当に効率・効果的に人々を救えていないのです。
そこで、休眠預金の配分とその投資対効果をチェックするのに特化した民間団体を設立し、その道のプロ達が機動的に、そして現場の公益推進団体と連携しながら、人々を助けていこう、という仕組みになったのです。
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民間公益事業と効果測定のプロ達が「指定活用団体」として政府から指定を受け、そして既存の助成財団やNPOバンク、中間支援団体に休眠預金を原資にした資金を供給します。助成財団等は、現場の社会福祉団体やNPO、学校などを通じ奨学金や福祉・教育サービスを、制度の狭間で困っている人たちに提供します。
「指定活用団体」が直接困っている人たちに奨学金やサービスを提供しないのは、この団体自体を肥大化させないためです。組織の肥大化は機動性や細やかなサポート体制を奪います。現場のサポートは地元の支援団体に任せ、資金提供とパフォーマンス測定に特化させるべきなのです。
④民間手法による社会イノベーション
さて、これによって何が起きるでしょうか。もちろん、政府や行政では助けられていない、困っている人が助けられます。しかしそれだけではありません。
これまでなおざりにされていた「支援の効果」を測定し、真に役に立つ支援はどんなものなのか、ということが明らかになるのです。
どういうことでしょうか。これまでの助成金の多くは(そして政府の補助金も)「投資対効果」はほとんど無視されていました。100万の助成を受け、それが100万円分以上の価値を出したのかどうか、は問われません。
「100万円を申請時の予算通りに使い切ったか」は厳しく審査されます。成果が出ることよりも、文房具をきちんと予算通り買ったか、が問われるのです。
予算が潤沢であった時代は、これでも良かったかもしれません。しかし、財政の苦しい今の時代は、「どんな支援が実際に効果的なのか」というエビデンスなく、政策を打ってはいけないのではないでしょうか。
たとえば犯罪加害者の社会復帰支援に1人あたり100万円投入し、あったかもしれない再犯による1000万円の社会負担を食い止められればそれは成功なのであり、そうでなければ失敗なのです。
民間公益事業において、こうした「支援の投資対効果の見える化」を行えれば、それを政府の政策に対して広げていくことができるでしょう。その時、日本の社会政策のパラダイムを大きく変えていけるはずです。
【質問に対する回答】
こうした新しい仕組みに対し、やまもとさんは組織的な詳細部分について指摘してくださっています。
結論から言うと「ご指摘ありがとうございます。ただご指摘頂いた組織面の話は、当然想定していて、今後細かく規定していきます」となります。
しかし、せっかく頂いたご指摘なので、個別にいくつか見ていきましょう。
「指定活用団体」はなぜ一般財団なのか
上で述べたように、政府の特殊法人や政府機関にしてしまうと、非効率な政府の肥大化が起きます。それを防ぎたいためです。
あくまで利害関係がないよう、新設の民間団体であることが望ましく、その実力があるか否かは透明性高く公募されることが望ましいでしょう。また、理事等に関しては、オールジャパンの英知を結集していくべきでしょう。
「指定活用団体」はなぜ一つだけか
前半で説明したように、「指定活用団体」が助成財団等の「資金分配団体」に資金提供し、「資金分配団体」がNPOや服団体を通じ、支援サービスを困っている人たちに提供していきます。
指定活用団体が複数あると、その複数団体のマネジメントが発生し、結局政府がマネジメントを行わねばならず、政府の肥大化をもたらします。また、支援の失敗に対し、どこが責任を持つか曖昧になります。
指定活用団体が責任を持って資金を分配し、失敗においては責任を取るべきでしょう。
日本財団と休眠口座国民会議の関係性
日本財団笹川会長は、休眠口座国民会議( http://kyumin.jp/ )の呼びかけ人のお一人です。国民会議自体はボランティア事務局によって運営されていて、日本財団にはシンポジウムの会場等をお借りすることはありますが、意思決定や業務の遂行は独立しています。
また、「指定活用団体」は新設される民間財団であり、既存の財団がそこに収まる、ということはありません。

更には休眠預金法の審議会等においては、まだ影も形もないので、そこに「日本財団がこれに関わる人物が理事や委員に就任するならば、お手盛りの批判は免れ得ません」と批判されるのも、架空の話を批判しているに過ぎません。
今後のチェックを行う審議会等は、他の審議会同様に、しかるべき有識者の方々を内閣府が選ぶことになっています。この審議会で個別の助成先の選定等しません。指定活用団体から助成を受けた資金分配団体が助成先を選定するので、直接審議会が助成先団体の口利きができる構造になっていないのです。
一方で、理事や評議員は任期制にすることで、影響力が過剰にならないようにしていく等のルールは決めていくべきであり、それは今後の政省令の中で規定されていくことを希望しています。
呼びかけ人の一人に不正で疑義を呈されている人がいる
休眠口座国民会議は、経済界、民間公益界、アカデミック界等、セクターをまたいでこの仕組みに賛同する方々を「呼びかけ人」という形でリスト化し、広く議論を呼びかけてきました。

そのお一人の学識経験者の方が、本件とは関連のない研究補助金の不正使用で疑義を呈されているという事態は、大変遺憾であり、我々としても憂慮しています。


一方で、そうした方の存在も、我々はWEBにおいて隠していない、という部分に我々の情報開示への信念を見ていただけたらと思います。「まずい人」がいたら隠すことは簡単です。しかし、それでは真摯に社会に対し情報を開示し続ける、という姿勢とは相反します。
やまもとさんが「まずい人」を見つけられたのも、我々が情報を開示し続けてきたことによります。そして、これまで5年の歩みと議論も開示し続けてきました。
良い情報も悪い情報も社会と共有し、議論をし、「最善の仕組み」を提言していく。それが我々の姿勢です。
監査の義務付けが法案文面にはないこと
やまもとさんは郵便貯金の運用に関する法律を例に、同様にすべきだ、とおっしゃっていますが、本法案は金融商品の取り扱いというよりも、福祉や困窮者支援の色合いが強いものです。
よって、現場のニーズに合わせて運用を変更できるよう、改正に時間がかかる法律ではなく、政省令(内閣府令)と施行規則によって、詳細をカバーしていく方が適切です。
そして、透明性の高い運用がなされるべきなので、助成に対しては明確な監査を行っていく必要は当然にしてあり、政省令でそれは規定していくことに強く賛同します。
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犯罪集団が助成の申請に来たら?
これは休眠預金に限らず、現時点においてもあるリスクですが、ここは助成財団の腕の見せどころになるでしょう。
きちんとした団体を見抜けるよう、「資金分配団体」である助成財団等が、きちんとした審査を行っていきます。
もし、不適切な団体に助成した場合、その「資金分配団体」が「指定活用団体」から資金提供を受けられなくなるので、資金分配団体には適切な監査をしなくてはいけない、というインセンティブが与えられます。
犯罪集団がNPOを偽装し、助成を受けに来る、というのはあり得ることではありますが、ゼロリスクを主張すると、あらゆる助成や貸付、投資は不可能になるので、きちんとしたチェックと、事後的なサンクションの仕組みを今後の政省令と施行規則に盛り込んでいくのが最善の手でしょう。

ビル建てるんですか?
この仕組みは、これまで支えてこれなかった困っている人たちを助ける仕組みです。使途はそうしたことに限定されていますので、ご指摘はナンセンスでしょう。また、指定活用団体において使途外の支出があった場合、内閣府における審議会において糾弾されるでしょうし、会計報告は公開されるので、メディアからも集中放火を浴びます。すると指定を外されるので、指定活用団体にビルを建てるインセンティブは構造上湧きようがありません。
(またご案内かと思いますが、JSCは文科省傘下の特殊法人であり、今回の指定活用団体は民間の一般財団ですので、前提が違います。)
というわけで、やまもとさんの質問にあらかた答えられたのではないでしょうか。
もしまだ何か疑問がある場合は、いつでも再質問いただけたらと思います。
最後に個人的な話をさせてください。
僕はフローレンスでひとり親支援をしていて、大きな絶望を感じました。
彼女達は非正規雇用で年収200万弱。必死に働き、それでも生活は楽にはならない。
そこで僕が「生活保護を取りに行きませんか?」と言うと「いや、そういうんじゃないんです。まだ頑張れますから」と言いました。どう考えても、彼女達は既に「頑張って」いました。
制度はあれど、助けられない人々はいる。自分はそれに気がついているけれど、お金も支援する人も、圧倒的に足りない。ひとり親支援でも、障害児支援でも、犯罪被害者支援でも、LGBT支援でも、どの業界に行っても、全く同じでした。
同じ日本に生まれ、苦しんでいる同胞達がいる。そしてそれに対し、何もできない。
僕にもっと力があったら。僕たちにもっと力があったら。
そしてこの仕組みに辿り着きました。
色んな人たちに話したら、それは良いねと力を貸してくれました。
心ある議員の方々が、党を超えて力を貸してくれました。
ノーベル平和賞を受賞したユヌス博士も「これはやるべきだ」と励ましてくれました。
そして5年かけ、ようやく国会に提出できるかどうか、というところまできています。
これはNPO利権なんかじゃない。今もどこかで苦しむ人々を、それでもなお「頑張っている」人々を、支え、伴走する仕組みです。
みなさんの力を、貸してください。
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