駒崎 弘樹 公式ブログ 提言・解説・アイディア

新法人格「ソーシャルビジネス法人(仮称)」が自民党の成長戦略に掲げられたことに関して、ソーシャルビジネス当事者より

【背景】

さる5月23日に自民党が成長戦略「日本再生ビジョン」を出し、そこでソーシャルビジネスのための新たな法人格を創設することを発表しました。

――日本再生ビジョン(http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/pdf189_1.pdf)より転載—–

●新しい法人形態「ソーシャルビジネス法人」の法制化 

環境、福祉、教育、エネルギー、治安など、社会問題の解決のためにNPO(非営利団体)を設立する起業家(広義)も多い。しかし、NPO の中には安定的な財源を確保できず、財務的な持続可能性に課題を抱えている団体も多い。そこで、株式会社とNPOの中間に位置する法人形態として「ソーシャルビジネス法人(仮称)」の法制化が必要である。ソーシャルビジネス法人とは、事業運営に必要な費用を自らの売上で生み出すという意味において株式会社と同義である。一方会社法で定められた株式会社とソーシャルビジネス法人の違いは、株主への配当制限や経営者報酬の制限であり、利益は社

会問題の解決に循環させなければならない。 

ソーシャルビジネス法人という新しい組織形態の検討ならびに法整備に直ちに着手

し、各種優遇措置も含めた環境整備を図ることで、様々な社会問題の解決に寄与する

と同時に、雇用と納税を生み出す「社会的起業」を促進する。 

―――

【新法人格を創る必要性はあるのか】

最初に申し上げないとフェアではないので言っておきますと、実はこのアイディアは、僕が2010年に内閣府の官僚をパートタイムでやらせて頂いた時に、発案したものと酷似したものです。


リンク「社会事業法人(案)」

http://www5.cao.go.jp/entaku/shiryou/22n3kai/pdf/100316_07.pdf

諸事情あり、当時は実現までは至りませんでした。

そういった意味で、この話の出元がどうあれ、自分の考えていたようなことが与党において検討されているのは嬉しいことです。しかし、一方で2010年当時とは環境が変わっているので、そのまま「新法人格を創る」ことに、2014年現在は「賛成できない」と思っています。

【バージョンアップしたNPO法人格】

まず第一に、当時「社会事業法人」という別の法人格が必要ではないか、と考えた理由として、NPO法人格のメリットが低かったためです。法人税も株式会社と同じで、借入もしづらく、何と言っても寄付への税制優遇も薄かった。

しかし、2011年の税制改正によって、(余り知られていませんが)日本は世界でも有数の「寄付しやすい税制」になりました。認定を受けたNPOに寄付をすると、寄付者は最大50%も税額控除を受けられます。つまり、寄付した半額が戻ってくる、というものです。

http://www5.cao.go.jp/npc/pdf/kihu-panhu.pdf

また、「みなし寄付」制度も認定NPOには付与されまいた。これは、NPOの収益事業から非収益事業に課税所得を移せるという制度で、実質的な法人税減税制度です。

この税制改正が効を奏し、認定NPO数は右肩上がりで増えていっています。(http://bit.ly/1hdzPBH

スクリーンショット 2014-06-05 16.21.23.png

こうしたことがあるため、もはやNPOとは「別の」法人格を創る必要性は薄れました。(ソーシャルビジネス法人にNPO以上の優遇策を付ければ別ですが、その可能性は低いわけです)

【アイデンティティの共有】

また、ソーシャルセクターがNPO法人とソーシャルビジネス法人に二分されてしまうのも、心理的に良い影響を与えないように思います。

というのも、これは「ボランティアや寄付等で成り立つNPO」と「事業で回すソーシャルビジネス」という二分を生んでしまいかねず、そうなると今は同じアイデンティティを共有しているNPO業界が「あいつらはビジネスだから俺たちとは違う」「あいつらは市民活動の延長でしょ」と、「同志意識」を共有できなくなってしまうのではないか、と。

現に、日本では非営利法人格が、学校法人、社会福祉法人、医療法人、財団法人等と乱立し、それぞれが「同じ社福」「同じ病院」とアイデンティティは共有しても、「俺たち同じ非営利セクターだよね」とはなっていません。これは「NPOマネジメント」と言った時に大学や病院も普通に含まれるアメリカ等とは、様相を大きく異にしています。

本来ならば、政治セクター・経済セクターと社会を3分しうる大きさを持つ社会セクター/非営利セクターが、それぞれの業界別に法人格によってコントロールされていることで、大きな発言力と存在感を持てないでいる、ということに拍車をかけてしまう可能性があります。

【「出資型NPO」の創設】

ここから僕の提言になります。なれば、如何にすべきか。ソーシャルビジネスを振興しようという与党の志や良し。

これを生かしつつ、更に2014年現在の状況に合わせた案を生み出していくべきです。

その答えは、「出資型NPO」類型を、NPO法人格「内」に新たに創ることです。

ただし、株式(持ち分)に関しては、非配当、もしくは配当金がごく小額になるよう、配当制限をする。

また、株式(持ち分)による議決権は、株式会社がその株式所有量の多寡によってしか議決できないのに対し、LLCのように量と議決権を切り離して設定できるようにする。

(例:出資額とは関係なく、1人1票/出資額とは別に、従業員からなる総会によって意思決定等)

認定を取った出資型NPOに対する出資は、寄付と同様に税額控除とすることで、インセンティブとします。

【出資型NPOでできるようになること】

この「バージョンアップ」によって、これまでできなかった多くのことができるようになります。以下にその効用をあげてみましょう。

☆立ち上げやすくなる

・出資が認められると、寄付とは違い出資金を集めやすくなり、社会起業を大いに後押しします

☆お金が集めやすくなる

・企業にとって、寄付は財務上はマイナスでしかありません。しかし出資は原理的には戻ってくることが考えられるため、よりハードルが下がります

・また、ベンチャーキャピタルや投資ファンドでも、現在は利益の一部から寄付をするという形にならざるを得ませんが、例えば投資ポートフォリオの中に、ソーシャルビジネス(出資型NPO)を組み込むことで、本業の中で社会事業支援が行うことが可能になります

☆合併が可能に

・NPO法人は株式の仕組みがないので、合併が一般的ではありません

・同じような志を持っているNPO同士が合併し、より規模を大きくし社会問題に相対することができます

☆ジョイントベンチャーや子NPOを創りやすい

・NPOが企業と連携し、新たなサービスを生み出していく事例が多くでています。(フローレンスの子育て支援マンション「アパートメンツタワー勝ちどき」等)

・こうした例において、これまでは委託や、資本参加を伴わない「提携」形式しかあり得ませんでした

・しかし、企業・NPOの双方が出資する、もしくは企業が出資し、NPOがノウハウを提供する等の方法によって、ジョイントベンチャーや子NPOを創っていくことができれば、より強いコミットメントを伴う連携が可能になり、新たな社会事業が生み出されやすくなります

☆「上場」が可能になる

・日本取引所の内規を改定して頂ければ、NPOも上場が可能になります

・そうすると、証券市場からの資金調達が可能になり、より大規模な社会事業の展開が可能になります

・投資家のインセンティブは配当や株価値上がりではなく、出資への税額控除や「元本が戻ってくる可能性の高い寄付(あるいは寄付性の高い投資)」です。

カナダやシンガポールでは、既に社会的証券取引所が設けられているので、日本でもソーシャルエクスチェンジマーケットを創出していける可能性は十分あると言えるでしょう

【まとめ】

出資型NPOの創設は、税金をほとんど使わずに、NPOの機動力と可能性を高めることができるようになります。

加速する人口減少と1000兆円もの国債にあえぐ政府が、多様化する社会問題の全てに機動的に対応することは、できません。

民間のNPOセクターの力を強化し、行政サービスからは生まれない「ソーシャルイノベーション」を生み出し、オールジャパンで迎え撃つしかないのです。

本提案が多くの社会セクター関係者の目にとまり、これをきっかけに議論が始まっていくことを、そして、政策立案に資することを願ってやみません。

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