駒崎 弘樹 公式ブログ 提言・解説・アイディア

松江市での「はだしのゲン」閲覧制限に抗議するために、市議会に陳情書を提出しました

 
「はだしのゲン」、子供の閲覧制限 松江市教委が要請 –
 
というニュースが話題になっていますが、こうしたことで子どもの知る権利が勝手に侵害され、戦争の悲劇を後世に伝えられなくなってしまうことに、危機感を覚えます。
 
ここで「おかしな自治体もあるものだな」で終わらせてしまうと、これが前例となり、教育委員が民主的プロセスを経ないで検閲することが許されていってしまいます。
 
体制側が検閲という武器を手に入れるということが、どれだけ恐ろしいことか、というのは太平洋戦争で命を失った我々の祖父母達が、既に70年前に味わったはずです。
 
表現の自由や、知る自由等、我々が当たり前に享受している自由は、ほったらかしていればそこにいてくれるものではありません。あたかもマイホームのように、シロアリから守ってあげなくてはいけないし、地震や風雨に備えて補強してあげなければなりません。
 
でなければいつも我々を守ってくれていた家が、ある時バリバリと音をたてて崩れていき、私たちを押しつぶす凶器に変わっていくでしょう。
 
そんなわけで、自分にできることを、ということで、陳情書を松江市議会に出しました。
これは誰でも出せますし、日本の地方議会においてはどこでも行われている要望の一形態です。
もし我も、と思う方はこちらのHPから書式をダウンロードし、郵送してみて下さい。
 
松江市ホームページ : 請願・陳情 http://bit.ly/19sajRu
 
祖父母が受けた痛みを語り継ぎ、世界で最も平和な日本であるために、できることからやっていきたいと思います。
 
 
陳  情  書
 
平成 25年 8月 18日
松江市議会議長
 三島 良信 様
            
件 名 「はだしのゲン」閉架措置の撤回のお願い          
 
1.要旨                      
・松江市教育委員が昨年12月に行った「はだしのゲン」閉架措置は民主的手続きを踏んでいないこと、また子どもの知る権利を阻害していることから、措置解除を求めます。                          
                                                                         
2.陳情理由                    
 
【不十分な民主的手続き】                         
 本件は高知市在住の中島康治氏が平成24年8月に提出した陳情が発端となっています。その後教育民生委員会で審査後、同年11月26日の委員会において全会一致で不採択とすべきと決しました。同年12月5日に行われた松江市議会本会議において教育民生委員長は「小中学校の図書室に置いてあってもおかしい話ではない」と報告。同日、全会一致で陳情は不採択となっております。
 
 一方、松江市教育委員会は改めて判断した結果、閉架措置を実施し、現在、市内小中学校に保有している「はだしのゲン」はすべて閉架措置をとられているところです。
 
 このように松江市教育委員会は、市民の代表たる市議会において明確に陳情が不採択にされているにも関わらず、それを覆す決定を行っています。その場合、松江市教育委員会は、明確かつ強固な正当性を要し、その説明責任が議会には必要です。また異例の閉架措置を実施したことに対する説明責任と納得が、松江市民、特に子ども達と保護者達対して必要なのは言うまでもありません。
 
 しかし松江市教育委員会は、明確な正当性を議会や市民にも充分に説明を行わないまま、市議会の決定を覆すような大きな意思決定を行っています。以上の点からもこの意思決定は議会の決定を無視し、また教育委員会の説明責任も果たされていない今回の閉架決定は、正当性が担保されていない、非常に問題のある決定だと考えます。
 
【子どもの知る権利の侵害】
 我が国の憲法21条1項において、国民の「知る権利」が保証されていると解釈されています。先の大戦において、どのようなことが行われたのか、自国民のみならず、他国民の被害や残虐行為も含め、全ての国民は知る権利を持ちます。ゆえに子ども達も、知る権利を持つのです。
 
 更に、今回の措置は日本図書館協会が1954年に採択し、これまで謳い続けてきた「図書館の自由に関する宣言」にも背きます。以下、該当部分を引用します。
 
2. すべての国民は、いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有する。この権利を社会的に保障することは、すなわち知る自由を保障することである。図書館は、まさにこのことに責任を負う機関である。
3. 図書館は、権力の介入または社会的圧力に左右されることなく、自らの責任にもとづき、図書館間の相互協力をふくむ図書館の総力をあげて、収集した資料と整備された施設を国民の利用に供するものである。
4. わが国においては、図書館が国民の知る自由を保障するのではなく、国民に対する「思想善導」の機関として、国民の知る自由を妨げる役割さえ果たした歴史的事実があることを忘れてはならない。図書館は、この反省の上に、国民の知る自由を守り、ひろげていく責任を果たすことが必要である。
(太字は筆者による)
 
 今回の閉架措置は、日本国憲法によって保障された知る権利を侵害し、また図書館の自由に関する宣言をも踏みにじるものにあたると考えられます。              
                          
 以上の理由によって、私は松江市議会に対し、「はだしのゲン」の閉架措置の撤回を陳情します。                         
                          
        認定NPO法人フローレンス 代表理事             
        内閣府子ども子育て会議 委員                  
                    駒崎弘樹  
 
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