駒崎 弘樹 公式ブログ 提言・解説・アイディア

児童相談所に関わる弁護士にヒアリングしました

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フローレンス幹事でもあり、虐待対策NPOであるCAPNA(http://www.capna.jp)弁護団にも所属する原武之弁護士に、政策提言のためにヒアリングを行いました。
 
原先生は某市の児童相談所の現場職員の相談に乗っていますが、児童相談所を巡る現状を大変憂慮していました。
以下に課題を列挙します。
 
【多くの課題】
○事件がある度に児童相談所が責められ、職員のマインドが防衛的になりがち
虐待死等がクローズアップされる度に、「なぜ見つけられなかったのだ」というバッシングが起きます。そうすると外部の目を入れると批判されることが予想されるので、外部連携と情報公開に消極的になります。閉じられた世界をつくりがちになってしまい、結果として社会的資源が集まらないし、行政やNPO等ステークホルダーとの心理的な溝もできていってしまいます。
 
○ケースワーカーが十分な人数いなく、専門性を育みづらい
まず人手不足。案件数に対し、十分な数のケースワーカーがいない。そのことで、虐待のサインを見逃したり、フォローができなかったりします。
 
そして、役所の一般事務職から異動してくる場合が多く、専門知識と経験が不足している。OJTで徐々に身につけていきますが、2~3年で異動するので、組織としてノウハウが蓄積しづらいということ。
(専門職採用の有無は自治体ごとのよう→http://bit.ly/11bG132)
 
○一時保護所が不足している
虐待が疑われる家庭があった場合、子どもを引き離して、一時保護所と呼ばれる公的施設で保護します。しかし、この一時保護所も当然定員があり、定員を超えると預かれません。
増え続ける虐待案件に対し、一時保護所が足りていません。(4割の一時保護所が定員を超えている)
 
また、中学生以降の子どもの場合、性的な問題行動を取る子どもの場合等、女子と同一施設で保護するのが難しいようなケースがあり、そうした各種問題行動に対応できるようなキャパシティも一時保護所にはない場合が多いのです。
 
一時保護所が満杯だと、引き離しても行かせる場所がないので、保護を躊躇します。そうして、虐待死の危険性を高めてしまいます。
 
○「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(精神保健法)のバグで、措置入院させづらい
虐待家庭のかなりの割合で、親の精神・人格障害(ゴミ屋敷や些細なことで豹変する等)が疑われるケースがあります。そうした場合適切な治療のできる精神科病院に入院させる(措置入院)制度があります。
しかし措置入院は、人権配慮の観点からみだりに濫用してはならないため、現場の警察は動きたがらず、「伝家の宝刀」と呼ばれています。
 
人格障害も投薬やカウンセリング等で、6~7割のケースでは社会的に問題を起こさない程度に状況が改善するそうですが、措置入院のハードルが非常に高いことから、放置になりがちです。そして子どもが犠牲になる、というパターン。
 
【やるべき政策】
○ケースワーカーと心理カウンセラーの増員
ケースワーカーの増員は「公務員の上限数が決まっている」「交付金で行うものなので自治体の予算制約がかかる」という壁があるのですが、厚労省が別枠で補助金を用意し、非公務員でケースワーカーやケースワーカーの事務仕事を補助するスタッフを雇えるようにすべきです。(現在一部あるようですが、拡充すべき)
 
また、心理カウンセラーは専門職ということであまり異動がないようなので、彼女達がノウハウ蓄積の鍵を握れます。よって、心理カウンセラーを増員していくことで、異動マストな公務員職員のノウハウ不足を補完して行く方法が考えられます。
 
○一時保護所の増設
単純に予算を付ければ良いだけ。子ども子育て支援法の7000億円から拠出するべきです。
 
○精神保健法の改正
政治犯等を精神病院にみだりに強制入院させるようなことはあってはいけませんが、子どもの命がかかっているような虐待案件の場合は、例えば過去の微罪での逮捕歴や第三者機関(児相等)勧告を条件に、措置入院のハードル引き下げを行うべきです。
 
また同時に、加害者になってしまうような人格障害を持つ方々へのサポート体制を強化すべく、行政の精神障害対応の現場の増強を行う必要性もあるでしょう。
 
【感想】
まさに問題山積みなのに、投入されている予算も少なく、政治的関心も薄いのは、やはり「票にならない」領域だからでしょう。しかし、国民的関心が高まれば、「児童養護について行動しているのは、政治的に得」な状態に持ち込めるはずで、やはり世論を喚起していかねばならない、と強く思いました。
 
※精神保健法と医療観察法の混同のご指摘を受け、記事を修正しました。
「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」によると保護者の同意がある場合には本人の同意がなくても医療保護入院ということで入院させられるのですが、なかなか病院が医療保護入院には応じてくれないそうです。
また、一方で「心身喪失者等医療観察法」は既に他害行為を行った者を対象とする法律ですが、
これは裁判官と精神保健審判員が審判を医療観察法に基づき入院させる制度です。
 
ヒアリングした弁護士さんが仰るには、精神疾患を有する者に対して家族では対応できなくなっている状態で対応を求められる弁護士は、上記の措置入院を求めますが、理解してくれる警察署や保健所はあるものの
それは職員の一部でなかなか組織としては対応しれくれず、家族が疲弊してしまう現状
があることから、それをどうにかしないといけないということです。
 
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