待機児童問題を考える前に、そもそも保育園の歴史を振り返ってみようか
最近、時期的なこともあって待機児童関係の取材が多く、似たような質問を受けるので、基本的な保育園(行政用語だと正式には保育所)の歴史を書いておきます。
まず、もともと保育所は明治期からあり、初期は社会事業家や紡績工場経営者等が、働く母親を助けるために純粋に民間で設置していた施設でした。その後大正期に初めて大阪で公立の保育所(当時の名称は託児所)ができ、東京等にも広がりました。
そして戦後、1947年に児童福祉法が制定されて、託児所は保育所になり、認可保育所という制度も生まれました。
この認可保育所は、国の認可基準を満たして補助金が投入されたもので、現在は約2万3000カ所あります。この認可基準を満たさず、国からの補助金が投入されていない認可外保育所が現在約7000カ所あります。(出典:日本保育協会)
戦後復興と高度経済成長を支えるため、国は「長時間労働のモーレツサラリーマンと専業主婦家庭」という新しい家族単位を、扶養控除税制等を代表的に、政策的に奨励してきました。第二次産業による経済成長を達成するために、最も効率的な労働力の再生産モデルだったためです。
そこにおいては、母親が働く家庭というのはマイノリティでした。ゆえに、今では日本語として違和感を感じる人も多い、「保育に欠ける」という言葉を使い、「保育に欠ける」子どもたちのために、福祉として保育所を作る、という政策を進めたのでした。
基本的には福祉政策であったため、その他の福祉政策と同様に、社会主義的ないわば「配給制度」を採用しました。つまり、行政がその地域の福祉を必要とする人々の数を把握し、それにあったサービス供給量を提供する、というモデルです。
サービス供給のやり方として、自治体が公務員を使って、自ら直営で運営する公立園。社会福祉法人という日本に特殊な法人格を持つ民間団体に委託する、私立認可園の2タイプです。
社会福祉法人は、戦後に作られた社会福祉事業法で定められた法人格で、政府の行いたい福祉事業を独占的に受けられ、税制面でのメリットを享受できる代わりに、剰余金の制限や各種規制をうける事業体です。政府としては、全てを公務員を使って行うことは難しかったため、戦前から各地で独自に事業を行っていた慈善事業家や社会事業家を、自らの統制的な管理下におき、効率的に福祉サービスを広げていきたかったということです。
さて、こうした社会主義的な配給体制に基づく認可保育所供給政策は、80年代から綻びを露にします。72年に雇用機会均等法が施行され、女性が正社員としてフルタイム労働に参画していくのが後押しされ、働く女性の数が増加します。それに伴い、働く母親の数は増加していきました。
国はようやく94年にエンゼルプラン・99年に新エンゼルプラン等の施策を打ち出しますが、政策の大きな方向転換をすることができません。同時並行的に、1990年代中盤には、共働き世帯数が専業主婦世帯数を追い抜きます。
90年~2000年代からは長引く不況と非正規労働の増加によって、夫の収入だけで家計を維持することが困難になり、母親の就労がパート・派遣労働等、多様な形態を取りながら更に進みます。
こうした「働く母親の数が増えた」「働き方が多様になった」ことに対し、戦後から高度経済成長を支えた認可保育所配給制度は十分機能できませんでした。70年前の社会状況を基に作られた諸々の基準は、高度経済成長を経た日本の都市環境には合わず、機動的にニーズに合わせて建設していくことができなかったのです。
ニーズに認可保育所が追いつかない状況が最も深刻だったのは、東京都でした。東京は設置基準の厳しい認可保育所に頼っていては十分な保育サービスを供給することはできないと考え、面積基準や園庭基準等を緩和した独自の認可システム(国からの補助金ではなく自前で出す独自補助)を2001年に立ち上げ、民間参入を呼び込みました。それが「東京都認証保育所」制度です。10年後には認可保育所数1800園に対し、認証保育所数はその3分の1ほどの約600カ所程度にまで伸ばすことができ、認可保育所に入れない子どもたちの受け皿を創ることに成功しました。
東京都のこの動きを見て、同じく待機児童問題で悩む横浜市や仙台市等が、自治体独自の認証保育所制度を創っていったのでした。しかし、この認証保育所でも、完全に待機児童問題を解決することはできませんでした。
そして結果として2万~4万の待機児童がコンスタントに生み出される現在のような状況になっていったのでした。ちなみに待機児童の8割が都市部に集中しています。
さて、90年代から効果的な施策を打つことに失敗してきた政府は、20年越しに大規模な改革案を与野党一丸となって国会を通過させました。それが「子ども子育て支援法」で、消費税財源7000億円がセットになっています。
本法律によって、これまでともすれば自治体主導で、行政の遅いペースでしか開園できなかった認可保育所制度を改良し、外形基準を満たしていれば開園が迅速にできるような仕組みに変わる予定です。
また、20人以上という大規模園でなければ認可されない、という硬直的な制度を変え、6人から19人の小規模な保育所でも認可する、という小規模認可保育所も新設されることになりました。
このように大きな方針転換が決定され、2015年から動き出します。しかしこの子ども子育て支援法では、大きな枠組みしか決められていません。例えば、新しい制度における保育料金の問題や、開園に関わる手続きの詳細等、この2013年を通して開かれる「子ども子育て会議」という有識者審議会に委ねられるのです。
ですので、現状としては「改革の方向性はでた」けれど「細部が骨抜きになる可能性もある」という予断を許さない状況です。
現状、赤旗や東京新聞をはじめとした一部報道において、「認可保育所を造らない自治体は悪だ」というような、シンプルな善悪構造で、読者のカタルシスを得ようとする言説が目立ちますが、上記に述べたように待機児童問題はもっと立体的なものです。善悪のはっきり分かれたシンプルな政府叩きは、気持ちいいかも知れませんが、有効な政策を生み出すことには全く繋がりません。
ぜひ、データとファクトに基づいた、今後の保育政策立案の真の助けになるような記事をお書き頂けますと、保育所経営者としても嬉しいです。現場からは以上です。
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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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