タイガーマスク運動の意味するもの
ここ最近、盛んに報道されているように、児童養護施設等にランドセルや現金が相次いで送られている。
100万円を一気に送付した方もいるようだ。
贈り元の方は「伊達直人」を名乗る。有名な漫画、タイガーマスクの本名だ。
ちなみになぜタイガーマスクかというと、タイガーマスクは児童養護施設(昔の孤児院)出身で、ファイトマネーを潰れかけていた児童養護施設に贈っていたことに由来するようだ。
全国の匿名の方から児童養護施設に寄付が集まっているこの現象が意味するもの。
それは、僕が拙著「社会を変えるお金の使い方 ~投票としての寄付・投資としての寄付~」でも述べたように、日本は「寄付文化がない」と手あかのついた言われ方をされているが、
全くそうではない、ということ。
むしろアイコン(象徴)と分かりやすい参加方法さえあれば、容易に寄付が集まる、ということを示しているのではないだろうか。
この場合のアイコン(象徴)は、ある年代以上の人だったら誰でも知っている「タイガーマスク」。
児童養護施設のために戦う苦労人で、イコール児童養護問題を象徴する。
そして参加方法は「『伊達直人』と書いて近くの児童養護施設に贈れるものを贈る」である。
初めてやった人は追随者のフォローをもちろん狙ったものではないと思うが、偶然にも
優れた寄付マーケティングの要素が入れ込まれたこのアクションは、たくさんの追随者を呼んでいる。
この一件は、しかるべき方法でしかるべき問題をアピールすることで、きちんと寄付が集まる
潜在能力を、我が国の社会は有している、ということを表してくれているのではないか、と僕は思う。
きちんと寄付が集まれば、これまで社会的資源が集まらなかった問題に資源が集まり、
社会的な不公正をもろにかぶっている人々に対して、問題の克服と自立の機会を提供できる。
それは日本を確実に一歩、「良い国」にさせていく。
そうした潜在能力が決して一過性のものではなく、脈々と骨太に展開されていってくれることを、僕は願ってやまない。
しかしそれと同時に、この日本における寄付ムーブメントの胎動的な現象を、より社会に根ざすものに昇華させるために重要な点を、自ら寄付を行うものとして、そして寄付を頂き
社会事業を行っているものとして、僭越ながら提起したい。
それは「寄付を受ける人々のニーズを捉えた寄付を行う」と言うことである。
簡単に説明したい。
寄付には二つの側面がある。最初に投票としての寄付。次に投資としての寄付である。
投票としての寄付とは何か。自分が「こうであったら良い」と思う社会に対して、
賛意の意味を表す寄付だ。
児童養護施設の子どもたちが、ものに不自由しない社会であってほしい。
そういうビジョンに対して、賛意を表すことを寄付を通じて行うのが、「投票」としての寄付。
そして「投資」としての寄付。これは、自分が賛意を表した社会を実現するために、
自分が資源を投下して実現に向けて前へ進めるための行為である。
それはお金かもしれないし、ランドセルやコメ(物品)かもしれないし、時間かもしれないし、専門知識かもしれない。それが何であれ、自分が投下できる資源を、問題解決ができる団体もしくは人に「投資」し、あるべき社会の実現に寄与する行為だ。
タイガーマスク運動は、前者の投票としての寄付としては、十分にそのビジョンを表している。
しかし、投資としての寄付としてはどうだろうか。
例えばランドセルが100個近く集まっている施設もあると言うが、その施設にはたして小学校に
あがる児童は、何人いるだろう?
もし5人だったら?残り95個は無駄になってしまう。他の施設におすそわけできるにせよ、有給の職員が他の施設と連絡を取り合って、配送したり何だりする手間や労力は掛かってしまうだろう。
その間子どもと向き合ったり現場の問題を解決する仕事からは、遠ざかってしまう。
寄付がもし投資だとしたら、投資対効果はいかほどだろうか?
例えばそこで、匿名でも一本の電話をして、施設が今一番何を欲しがっているかを聞いてみたら、投資対効果はどうだろうか。
ランドセルは5個必要ということが分かり、残り95個分をやめてその分を、例えば高校受験を
ひかえる3人の生徒のための補習塾通学のお金にして贈れるかもしれない。
そうすれば、中卒で社会に出ることもなく、高校学位を取れる子ども達の数を増やしていけ、
その分ワーキングプアになるだろう子どもたちを減らせるかもしれない。
そう、ビジネスと同様に、寄付もまたニーズの把握によってこそ、投資対効果を上げられるのだ。
タイガーマスク運動は、日本における更なる寄付文化の拡大に大きく寄与し、もしかしたら
歴史を振り返った時に、本年の施行される新寄付税制(欧米並みの税額控除)と共に「あそこがターニングポイントだった」という象徴的な出来事になるかもしれない。
そうなって頂くためにも、寄付というものに2つの側面があることを、広く、多くの人々に
知って頂き、そして寄付の持つ真にパワフルな力をも皆さんに認識して頂きたいと、心から
思うのだ。
伊達直人は最終回において交通事故に会い、死の間際に持っていたタイガーマスクの覆面を
投げ捨て、無名のままひとりで死んでいった。
しかし現代の伊達直人は、ずっとずっと生き続けてほしい、と僕は思う。
そのためには、僕達ひとりひとりが傍観者ではなく、とにもかくにも実践者として
寄付を行うことだ。
あるべき社会に賛意を示す、投票としての寄付を。
そして、それを実現させる、投資としての寄付を。
「社会を変える」お金の使い方――投票としての寄付 投資としての寄付 駒崎弘樹 英治出版 |
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