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【書評】『「官僚」がよくわかる本』で分かること

畏友、寺脇研氏の新刊。日本で最も官僚らしくなかった官僚の氏が、愛を込めて語る官僚についての書。


氏は挑発的に語る。「官僚は犬である」と。
しかしこれは犬畜生、という意味ではない。
犬のように喜んで仕事をし、主人に喜んでもらおうとする
存在だ。では主人は誰か。国民である。
そして主人はドッグトレーナーに自らの犬の調教を
任せる。そのドッグトレーナーこそ、政治家だ。
政治家が犬である官僚を十全に使いこなし、
主人に最もよく奉仕する犬に仕立て上げていくべきだ、と。
面白い例えだ。けれどこう思う主人(国民)もいるのでは。
「そうは言っても、天下りとか渡りとかする、尊大で卑小、かつ経済感覚の無いエリートじゃないか、官僚は」と。
確かに昨今の不祥事のオンパレードによって、官僚のイメージは最悪だ。私もそうだった。
例えばこれは地方公務員だが、NPOとして現場で子育て支援を行っている私に対し、東京都某区の役人は「迷惑なんですよ」と仰った。たまたま某区に所在地を置いていたフローレンスが新聞に出るたびに、某区に電話がかかってきて、それを受けるのが彼だったらしく、仕事が増えて参っている、ということだった。江戸っ子なので常に喧嘩上等な私だったが、キレるを通り越して、考えさせられた。これはこの役人がどうしようもない、ということを通り越して、構造的な問題があるのではないか、と。
構造的な問題とは何か。「官僚達の夏」に代表されるように、日本の国家目標が追いつけ追い越せだった時代には、目標はシンプルであった。日本の自動車業界の発展が、日本経済の発展であった。
しかし今はどうだろう。トヨタを守ることが日本経済の発展だろうか。むしろトヨタのようなものづくり企業群の輸出で食べて行くビジネスモデルから、売りきりではない運用のノウハウも含めた水道や原子力発電パッケージを売っていく時代へとなっているのかもしれないし、また文化を始めとしたソフト産業に転換していかなければいけないのかもしれない。
社会福祉にしても、「困っている人」の多くは貧しさから来るものであった。しかし今はどうだろう。保育園が足りない、高齢者がひとりぼっちだ、虐待だ、これらは貧しいというだけで起きるのか。否。
もはや答えは明確ではなくなった。大きな答えを知っている官僚が、懸命に働き国家を導いていく時代は終わった。むしろ答えなき荒野に、それぞれの企業が、NPOが、国民が小さな答えを
試行錯誤で生み出しながら、自ら社会を支えていく時代へと変貌を遂げようとしている。公共を官にアウトソースするだけでない。各々で担う、「新しい公共」の時代に来ている。
そこにおいて官僚は先導するものではなく、伴走するものになろう。
かつてのエリート集団が、自己否定にも近い変貌を行うことができるのか。むしろそれでも自らの権益に固執し、変化を妨げて行くのだろうか。
著者は語る。「彼らは悪意があるのではない。何をして良いのか分からないのだ」と。
全くもって同意だ。私も半年という短い間だが、内閣府の官僚の職を頂いたことがある。そこで官僚の方々と触れ、議論し、共に働いた経験から言うと、彼らは全くもって悪人ではない。むしろその使命感は確実に尊敬に値する。
けれど「何をするのがベストなのか」ということを彼らが肌感覚で分かるのは難しい。これはある意味当然であろう。例えばNPOや市民活動を促進する制度を作ろうとした時に、彼らはNPOに勤めたこともなければ、市民活動を行ったこともない。データとヒアリング、専門家の意見のパッチワークによって、最もあるべき制度を企画していくのである。ゆえに、経験から来る確信の土壌の上で、絶対にこれは外せないのだ、という制度構想を行うことはできない。がゆえに、現実から遊離した制度が何度も組み立てられていってしまいがちになる。
けれどこれは官僚の責任であろうか。そうではない、と私は思う。彼らは与えられた仕事をそれこそ何でも処理していく人達であり、現実に根を下ろした構想は、それこそ政治家の仕事なのだ。
いや、政治家にはもっと期待できない?
ならば、我々国民が、それぞれのフィールドにおいて何かの専門家である我々が、直接官僚や政治家に現場感覚とそこから紡ぎだされるありうべき制度構想を提案すべきだろう。
官僚や政治家は取りあってくれない?全くそんなことはない。
私のような30歳に過ぎない人間の言うことを、恐ろしいくらい熱心に聞いてくれ、制度化に力を貸してくれているのも、また彼らなのだ。これまで私が提起した仕組みが、いくつか現実のものとなっているのは、彼らの力なくしては考えられない。
官僚(や公務員)は悪人ではない。もちろん社会に悪人が一定の割合でどうしようもない方がいるように、官僚にもそういった方はいる。しかしそんなことはデフォルト(初期値)だと思えば良い。その他大勢の日本のためになりたいと思っている、愛すべき忠犬達と手を携え、答えを生み出していけば良い。
NPO、官僚、政治、ビジネス、いくつもの領域をクロスオーバーし、志で繋がろう。私は若手官僚の方々と飲み、日本の行く末を語り、ビジネス業界の友人たちと新しい仕掛けを画策し、政治家の方々に現場の声を届けている。
こうした動きは可能だ。そしてそこからしか真に社会を変革するムーブメントは生まれて来ないと思っている。
本書は誤解されがちな官僚の生態と、政治や行政に興味や関心も持たないくせに、彼らに依存しきっている日本国民のありようについて、これ以上ないくらいに気付かせてくれる良書である。寺脇さん、ありがとう。

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