パラレル起業家三茶ファーム創設者、千田弘和さんがバイアウトしたお金で寄付をした理由
フローレンスの病児保育をひとり親家庭に安価に提供する、病児保育ひとり親プラン。そのための寄付サポーター「ひとり親サポート隊員」として毎月継続支援をして下さりながら、昨年末には「フローレンスで今一番寄付を必要としている事業に役立ててほしい」と、フローレンス団体全体への多大なご支援をくださった千田弘和(ちだひろかず)さん。
千田さんといえば、世田谷区三軒茶屋にあるこだわりの八百屋「三茶ファーム」のオーナーさんとして知られますが、実はIT起業家としての顔も。
ビジネスとご自身の実現したい夢とがうまく共存し、その一部に支援活動がナチュラルに包含されている千田さんのライフスタイルと、フローレンスへの支援に込められた想いに迫るべく、フローレンス代表理事駒崎弘樹がインタビューさせていただきました。
千田 弘和 / Hirokazu Chida
1977年 青森生まれ。大学卒業後はシステムインテグレーターにて大規模業務システムの開発に従事。2010年12月に起業し、オーガニック八百屋「三茶ファーム」や、農業ビジネススクール「スクーリングパッド 農業ビジネスデザイン学部」を運営する。
2013年11月に株式会社WILBYを設立。Webマガジン「SAKIDORI」を立ち上げ、2017年に同社の全株式を株式会社ビックカメラへ売却。2017年10月に株式会社canonicaを設立。結婚式のWeb招待状サービス「Weddingday」を運営する。2017年11月に株式会社natowaを設立。「楽しいを仕事にする」という理念を大切に、人との縁を大切に様々なプロジェクトを実践する。
八百屋とIT企業をパラレル展開するワケとは?
駒崎:このたびはフローレンスに多大なご支援をいただき、本当にありがとうございます。
はじめまして、ですが、WEBメディアなどでは「三茶ファーム」のことを拝見させていただいていました。どうぞ、今日はよろしくお願いします。(名刺を出す)
千田:よろしくお願いします。たくさん名刺があって……すみません(笑)
駒崎:3枚も名刺が。株式会社WILBY、natowa.Inc、株式会社canonica・・・
千田:いろいろやっていて。「三茶ファーム」をやってるのはこのnatowa(なとわ)っていう会社です。
駒崎:natowaってどういう意味なんですか?
千田:あ、それ聞いちゃいますか?
駒崎:ぜひ、聞かせて下さい。
千田:野菜の菜のna、なごみの和とか、人の輪、とかのwa。そして、もうひとつは自分とご縁のある人たちと仕事をやっていくという意味を込めています。
私はもともと青森出身で、青森弁で「なと、わ」って「あなたと、わたし」っていう意味なんです。
野菜と、プライベートなご縁を活かして仕事をしていきたいなという想いで名付けました。
駒崎:へえーー、めっちゃいい!「なとわ」、いい言葉。ルーツを大切にされているんですね。
そして、こちらの名刺2つは別の会社なんですね。
千田:はい、WILBYとcanonicaはITの会社です。
駒崎:農業の会社とITの会社をパラレルに展開されていて、すごい興味があります。
千田さんといえば、もともとIT業界にいらっしゃって、八百屋さんで起業されたという転身も斬新だなと思ったんですが、どんな経緯で?
千田:よく言われます。前職は日立で10年間SEをやっていまして、そのうち独立しようとは思っていたんですが、どうせやるんだったらIT業界とはまったく逆をいきたくなって。
もともと青森出身だというベースもあり、食にも興味があったので、農業に惹かれていきました。農業について色々調べていたら、次々課題意識もうまれたので、ITを一度辞めて本格的に農業での起業を考えました。
当時は友人に畑を借りて、生産のほうもやってみようと思ったりしたんですけど、やってるうちに、生産農家は自分よりもっといい人がいる、と。自分は生産の先にある流通のほうをやるべきかなと思いました。
駒崎:それで、八百屋さんで起業されたんですね。
千田:八百屋をやりつつ、「世田谷ものづくり学校」で 農業とか地域活性とかに興味のある方向けにビジネススクールをやったり、卸市場をITで支援するみたいなことをいろいろやってたんですけど。
農業系って……まあ儲けるのが大変なんですよね。
駒崎:ビジネスとして成り立つのが難しいということですか?
千田:自分のやりたいことを追求していくと、なかなかビジネスと合わなかったんです。そこを最初両立しようと頑張ったんですけど、これは「やりたいこと」と「ビジネス」とを、わけたほうがうまくいきそうだなと思って。
ITはビジネスとして収支をしっかりまわすことを中心に、農業はもっとやりたいこと、やるべきことを中心に考えようということで、会社をわけたんです。
駒崎:なるほど。1つの会社で無理やり両立させるのではなく、2軸にわけて、自分の活動の両輪にしたんですね。
サードプレイスから生まれたつながりが、ビジネスにつながった
千田:ITの会社、WILBYをつくったのは4年前くらいですかね。友人と一緒につくったんですけど。
ちょっと昔の話をすると、もう10年以上前からなんですが、私はプライベートでプラスワンという団体に参加していて、フィリピンとカンボジアの孤児院支援をしてきました。
私が支援していた孤児院では、生活費、学費、施設費など金銭的支援はもちろんですが、子どもたちと一緒に過ごす現地ツアーも組んで、精神的にもサポートしています。子どもたちの夢をかなえる「ドリームズ・カム・トゥルー」という企画をしたり、一過性じゃない支援を大事にしてます。
この団体は、社会人が現在では100人くらい参画していて。週末にいろんなチャリティイベントをやって、そこで得たチャリティをフィリピンとカンボジアに寄付するという活動なんですが、みんな自然にチャリティー活動を楽しむような人が多くて、なんというか価値観が似てる人が集まってる。
その中で、チャリティだけじゃなくビジネスを一緒にやりたいねという話につながって。
WILBYも八百屋のほうも、そこで出会った仲間と立ち上げた会社なんですよ。
駒崎:すごい!「誰かのために何かしたいよね」と人が集まって、そのサードプレイスがビジネス・インキュベーション(※)の場にもなっていたというわけですね。
※ビジネス・インキュベーション…起業や新事業の創出を支援し,その成長を促進させること
千田:そこでのつながりの中から生まれたビジネスが、いっぱいありますね。
「ご縁で仕事する」っていうのをすごく大切にしているし、生き方として自分はそれがあってるみたいです。
WILBYのほうは4年前にベンチャーでスタートして、主にウェブマガジン「SAKIDORI」というのと「Weddingday」という2つの事業をやっていました。
SAKIDORIはモノ・マガジンのWEB版みたいなコンテンツ発信サービスで、Weddingdayは結婚式の招待状をWEBで簡単につくれるっていうサービスです。今、ブライダル市場で10組に1組ぐらいは使ってもらっています。
千田:この4年の間に、子どもが生まれたりして。娘は今1歳5ヶ月になるんですけど。
駒崎:めっちゃめちゃかわいいっすね。これからもっと可愛くなりますよ。うちも上の子、女の子で。
千田:「パパー!」ってくるの、もう最高。たまらない・・・
(ーーーしばしパパトークが続く)
千田:えっと、そうこうしているうちに「SAKIDORI」をビックカメラさんに100%バイアウトできまして。少しまとまって寄付をさせていただいたきっかけはそれです。Weddingdayのほうは残したかったので、株式会社canonicaという新会社を起業しました。
子どもが生まれて「あ、いまだな」と思った
駒崎:おおぉ!ビックカメラが。メディアつくって売却するって、すごいサクセスストーリーですね。おめでとうございます。
千田:ありがとうございます。株式売却したけどかなり自由にやらせてもらっていて。すごく良い形のバイアウトだったと思います。
千田:こうした機会にどこかにまとまった寄付をしようと思った時に、フローレンスさんがいいかなって。フローレンスのことは、フィリピンやカンボジアの支援をやってる中で、「かものはし」の村田さんとか、当時社会起業にアツかったメンバーが周りにいたこともあってよく名前を聞いていたんです。
ただその頃は「病児保育」とかって身近な存在じゃなかったんですけど、いざ自分の子どもが生まれたときに、初めてすごく自分に身近に感じて「あ、いまだな」って思った。
一人ひとりの支援では、世界中救うことはぜったいにできないじゃないですか。だから、自分がご縁があること、自分が今思い入れがあることをそれぞれが支援するのが一番いいんじゃないかと思っているんです。
千田:今の私は、実際に夫婦で保育園探しに苦労しましたし、子どもが病気の時仕事との両立が大変だってことも自分ごとですし、子どもの虐待、子どもの貧困、すべて肌感を持って迫ってくるんです。そんな時、フローレンスさんを思い出して。
駒崎:嬉しいですね。ご縁をいただいて仲間になっていただけて。ありがとうございます……!
なんだか、千田さんのお話を聞いていると、「新しい起業家のカタチ」を見せていただいた気がしました。大企業で勤めつつ、サードプレイスで自分の思いに沿う活動に取り組みながら、そのサードプレイスを苗床に仲間と起業したりとか。そこで出た利益を、社会課題の解決に投資する、という。
すごく柔軟で自然体の、シリアルアントレプレナー(連続起業家)ですね。
千田:かっこよく言うとね(笑)
自分にとってこういうスタイルは、すごく健全に感じています。ITってバーチャルなので、体感としてのやりがいが少ないんです。でも八百屋ってお客さんと会話して「いいね」って言って買ってもらう。それって商売のベーシックだし、すごく楽しいんです。気持ち的にバランスを保ちながら仕事するって、大事ですよね。
多様性が失われていく消費社会、野菜もその危機に瀕している
駒崎:わかるような気がします。私ももともと大学時代ITベンチャーやってたんで。当時はホームページつくって数百万もらえた時代で儲かったけど、なかなかやりがいみたいなとこは厳しくて。そんなITと180度違う、保育という現場の世界に向かったのも、千田さんと似ているかも。
ところで、今めちゃめちゃ八百屋さんに興味があって。ちょっとマニアックな質問をしてもいいですか。
というのも今フローレンスが複数のNPOなどと一緒に事務局をやって「こども宅食」という事業をやっています。文京区の就学援助世帯・児童扶養手当を受けている世帯に向けて、1-2ヶ月に一度食材を宅配するという支援事業ですが、米や缶詰、調味料、お菓子といった日持ちがする食品を主に届けているんです。
でも、野菜などの生鮮食品が届けられたらやっぱりいいのかなあなんて考えていて。でも、野菜は古くなるのがはやいのですよね。こういうサービスには向かないですか。
千田:ああ、なるほど。うん、確かに野菜はなまものだから難しいです。
八百屋を始めるときに、「難しいんだろうな」と思ってやってみたら、ほんとに難しかったっていう。全国から同じように起業したい、と三茶ファームによく見学に来るんですけど、私はまず勧めないです。それくらい生鮮食品は難しいですね。
駒崎:農家さんから仕入れて店舗側は売らなきゃいけないじゃないですか。だけど売りきれなかったものはどうなっちゃうんですか?
千田:うちの場合は単品で個数表を作って管理しているんですが、これあたりまえのように見えるんですけど、ほとんどの八百屋さんは勘と経験頼みです。だから、一般的には八百屋は仕入れた商品の1割から2割を捨ててると言われていて、ロスとは切っても切り離せない。
うまく仕組みを作ると「こども宅食」に回せるのかもしれませんが、やはり鮮度が数日ですからね。
駒崎:ちなみに三茶ファームさんではロスは出ないんですか。
千田:うちは単品管理しているのである程度読めるのと、ロスがでたらその分安く仲のいい飲食店に半額で売るみたいなのをやって、残りは自分で食うみたいな(笑)
そういうわけで、ロスがほとんどなくやっていますよ。
駒崎:飲食店向けのBtoBも組み合わせるわけですね、よく考えられていますね。
千田:食品ロスの問題と同様、農業には今いろいろな問題があります。スーパーでは野菜の見た目や持ちの良さ、売れ筋ばかり重視されて、本当に美味しい野菜とか、珍しい野菜が並んでいない。均一化しちゃってて、そういうのおもしろくないじゃないですか。
例えば八百屋に行くと見たこともない野菜が売っている、店員が「こうやって食べると美味しいんですよ」と紹介したり、持ちが悪い野菜でも対面販売にすることで売れていく。
対面でコミュニケーションを取りながら売ることで、店舗に置ける食材の幅が広がるんです。そういう流通ルートを残していかないと、珍しい野菜とか手間暇かけて作られた美味しい野菜は本当に消えていっちゃうんですよ。
多様性って、大事なことだと思っています。
駒崎:そうですね、均一化に危機感を感じるという部分、非常に共感します。
たくさんのストーリーを持った価値ある野菜が、市場でマイノリティであるという理由でなきものになっていくというのはさみしいですもんね。
千田:三茶ファームはほぼ90%、提携農家さんから直接仕入れているのが特徴で。
誰がどういう思いで、どうやって生産しているかを知った上で買えるという、野菜の裏側にあるストーリーが付加価値だというスタイルでやっています。
千田:理想としてはそういった野菜との出会いを面白いと思ってもらえて、店舗側は売りがいがある、農家は作りがいがあるっていう八百屋のモデルになれたらいいなと夢見ています。
日によって並んでいる野菜の種類はいつも同じではない、でも知らなかった野菜や棚に並ぶまでの物語に会うことができる。一期一会を八百屋のスタッフがつなぐ、という。
八百屋業のほうではそうした流通文化を守っていきたいんですよね。
駒崎:私も三茶ファームのように多様性があふれる社会が面白いと思いますし、人と人とのつながりが人生を豊かにすると感じます。
ひとり親家庭であったり、障害児であったり、血の繋がりのない家族であったり、多様な子どもたちを、社会で育んでいけたらいいな、と。マイノリティがセーフティネットからこぼれ落ちることのない社会を作っていきたいなと思っています。
フローレンスのビジョンは「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」を実現すること。そのために親子の笑顔をさまたげる社会問題は片っ端から解決していく、というスタイルで事業展開しています。
千田:私はまだまだ子どもや子育てに関わる社会問題について全然知らないので、それを知りたいと思ってフローレンスさんへの支援にアクセスしました。自分にできることがあれば、ぜひご協力できたら嬉しいです。
駒崎:ありがとうございます。
千田さんが社会をより良くしたい、と参画して仲間と出会ったサードプレイスのように、フローレンスも「あたらしいあたりまえ」を作りたい人々が集い、実際に実現したい未来をみんなでつくっていけるような場所になっていきたいです。
これからもどうぞよろしくおねがいします。
千田:こちらこそ、よろしくおねがいします。フローレンスさんが取り組む社会課題について、知る機会があれば積極的に参加していきます。
駒崎:千田さんの流通モデル作りのように、フローレンスも社会課題の解決モデルをつくって、制度に訴え全国の事業者が参入できるようにスケールしていくことが使命だと考えています。
訪問型の病児保育も日本初のサービスでしたが、小規模保育事業も、障害児保育園も、こども宅食もすべて日本で初めてのところからチャレンジしました。
まだまだ、新しい事業は道半ばです。
千田:収益事業を回しながら、新たにやるべきだという思いを新規事業として成立させていくところにフローレンスさんの強みがあると思います。
これからも応援しています!
千田弘和さんと駒崎の起業家対談、いかがでしたでしょうか。
ご自身と縁のあった人やできごとを大切し、自分にベストなバランスで人生をデザインしている千田さん。フローレンスも、そのつながりのひとつになっていけたらと思います。
千田さんが子育てをするなかで子どもや親子に関する社会問題が「自分ごと」となったように、もしあなたにも「こんな社会になったらいいのに!」という想いがあれば、まずはワンアクションを起こしてみませんか。そして「親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決する」というミッションに参加して下さるなら、フローレンスにその想いをどうぞ託して下さい。
必ず、皆さんと変化を起こしていきたいと思います。