障害児保育がつないだ幸せと、祖父母から託された想い
先日、ご寄付とともに、フローレンスにこんなメッセージが届きました。
私の娘夫婦の子に、先天的な障害があり、実際にアニーさんのお世話をいただいております。ありがとうございます。
フローレンスさんのご活動については、孫のことがなければ存じ上げてもおらず、娘夫婦が色々と調べ、私たち祖父母も勉強し理解した次第です。お陰様で、娘夫婦と孫も希望を持って、前向きに日々を過ごさせていただいており、アニーの皆様には心より感謝いたしております。
フローレンスの活動がサステナブルに続けられる一助にでもなれば、そして孫と同様の多くの子ども達が社会から疎外されることなく、夢と勇気を持てる社会へと繋がっていけばと願っております。
このメッセージを読み、スタッフ一同、大変感激し、お祖父様の達夫さん(仮名)とお祖母様の光子さん(仮名)に、インタビューをさせて頂きました。
(聞き手:認定NPO法人フローレンス みんなで社会変革事業部 山崎)
※障害児訪問保育アニーとは
アニーは、障害のあるお子さんのお宅に伺い、保育スタッフがマンツーマンで保育をします。 慣れ親しんだ環境で、個別に対応が必要なお子さんそれぞれに合った保育と、訪問看護サービスが受けられます。
アニーのおかげで、孫の成長を家族で喜ぶことができる
ーーまずは、フローレンスにご寄付をいただき、ありがとうございました。
達夫さん:アニーさんのようなサポートがあることで、家族の笑顔が増えている実感があります。寄付をしたきっかけは、この事業を継続して欲しいという想いでした。
産まれる前から、孫に心臓の病気があることは分かっていました。医療の進歩によって、孫の大切な命を、生かして頂きました。
「本当に産まれるだろうか?」「すくすく成長するかな?」と、不安な気持ちもありました。今、無事に2歳になりました。
様々な制約もありますが、娘夫婦はもちろん、私たちも孫を得て、とても幸せです。孫に出会えたことはありがたいことで、障害を抱えていることすら忘れて接しています。ですが、アニーのようなサポートがないと、産まれたことが、家族にとって不幸な文脈になってしまう可能性もありました。
孫の担任である保育スタッフの渡辺さんにも、本当によくしていただいています。
光子さん:本当になついていますね。訪問看護師さんにも来てもらっていますが、おかげさまで色々な成長につながっています。渡辺さんに、保育園にいるかのように保育してもらっているのが、ありがたいです。折り紙をつくったり、夏にはうちわをつくったり……
達夫さん:療育に連れて行ってもらったりもしているし。
光子さん:随分成長したなあという実感があります。
達夫さん:日々の保育は、療育からのフィードバックが活かされているというのを、娘から聞いています。
光子さん:母親だけだとわからない遊び・工夫した遊びもやってもらっています。公園に連れて行っていただいたりねえ。ボンベ(※)を持っていって公園に行くのは、難しいと思っていたので。外出のための準備にも時間をかけてくださっていると伺っています。本当に大変なことだと思います。
※医療的ケアのひとつである人工呼吸器利用時に使う酸素ボンベ。2.5キログラムほどの重さがある。
達夫さん:入園式や、誕生日会をやっていただいていたり、保育園のような環境をつくってもらって、孫もいろんな刺激をもらっています。
もともとは、孫が保育を受けるのは、無理なのかなと思っていましたが、保育を受けられるようになって本当によかったです。孫と娘夫婦は幸運にもアニーを利用させていただくことができていますが、これがもっと広がるといいなあ、と思っています。
娘は、渡辺さんのサポートが、作業とか処置という感じではなく、孫が大事にされている、愛されていると感じると言っていました。
光子さん:一対一で、逆にありがたい所もありますね。一般の保育園ですと、そうではないこともあるでしょうから。子どもひとりひとりの性格や症状をきちんと把握して保育してもらって、認可保育園の保育料内におさめてもらって、すごいことだなあと思っています。もっと広がって、必要な人に届いてほしいですね。
孫が産まれるまで、障害児の問題については「よく知らないこと」だった
ーーさきほど、アニーのようなサービスがもっと広まってほしいと仰っていましたよね。アニーのサービス拡大のためには寄付が重要な原資で、簡単にお金を集められるわけではないという問題があります。
達夫さん:私も、日本の寄付文化については、課題意識があります。身近にはいない存在に対する感受性、共感することというのがそのひとつです。
夫婦でよく話すのですが、ダウン症の子を育てる知人がいます。以前は、彼らにどんな問題があるのかよくわかりませんでした。孫が生まれたことで、自分たちも、そうか、こんな問題があるのかと、やっと理解することができました。
今、我々は障害児保育の問題の当事者として実感していますが、社会に包摂されにくい方々は、障害児だけではない。大人にもたくさんいらっしゃるわけですよね。
インクルージョンという言葉がありますが、弱者の視点で、いろんな人が行政の制度などといった仕組みから取り残されないような、社会の包容力みたいなものを醸成してけるとよいと思っています。
ーー私たちも、NPOとして、弱者や、マイノリティの方の声を代弁していかなければいけないと思っています。当事者が声をあげづらいことも多いので。
達夫さん:ええ、そういった声が、社会全体に浸透していくということが、重要ですよね。
先日テレビで、チューブで栄養補給する子が、障害のない子と一緒に学校で学んでいるのを見ました。喋ることのできない子にも、喜怒哀楽があるということを、周りの子ども達が理解していました。彼らにとっては普通のことで、社会に出た時に、問題意識をもって成長していくんでしょう。
彼らのように、知ることがキッカケになって変わっていくと思うんです。
ーー私もあの番組は大変感銘を受けました。しかし、ネットには「そこまでして社会に出る必要があるのか?」という声もあったりと、多くの意見がありました。
達夫さん:そうです、発信し、さらされていくことが重要だと思います。知識を広める方法論なので、批判なり非難を承知のうえで、露出を高めていくことは大事だと思います。
知らないということが、1番怖いことではないでしょうか。
予定調和や、同調圧力に負けず、フローレンスさんのような形で、議論を起こしていくこと。多少摩擦があっても、それこそが健全だと思っています。
ーーはい。摩擦を恐れず、前例をつくっていこうと思います。
達夫さん:たとえば、私は、自動車業界におりますが、自動車業界にとって、「自動運転」はグレーゾーンです。しかし、「自動車事故」という社会問題をなくす、ということを究極の目的においてチャレンジしています。そこの感覚は、私も理解できます。
いろいろな意見はあると思いますが、”やる人”がいないと、社会は変わらないと思っています。
娘夫婦が、社会の一員として排除されそうになった
達夫さん:実際、もしアニーがなかったら、娘も、義理の息子も、社会人として制約を受けたでしょう。
娘も、もともと働いていたところへの復職は叶いませんでした。しかし、アニーのおかげで、新しい職を見つけて、社会生活を送れています。娘夫婦が、社会の一員として排除されそうになった、その意味で、インクルージョンされていないという実感はありました。
ーー確かに、子どもだけではなく、親御さんもそうですね。
達夫さん:子育てしながら、社会に存在出来る。そんなインクルージョンが重要ではないでしょうか。娘が子どものころは、働きながら子育てをする環境はありませんでした。
私自身、子育てをほとんどしてきませんでした。今思えば、とても残念です。娘の子ども時代の写真を見ると、妻が子どもと遊んでいる写真が多いし、私が娘を抱いている写真からは互いの距離を感じる(笑)。
私は会社を経営する立場ですが、若い人には、そういう思いをさせたくないと思っています。会社から祝い金を渡しますが、その時には、「子育てをちゃんとしなよ」と声をかけています。
フローレンスは、今の社会で受け容れられていないところを、時代を先取りして埋めているんだろうなあと思っています。それがあたりまえになるように。
支援の輪が広がって、多くの人が支えられる社会を
ーー最後に、フローレンスへ期待することを教えてください。
達夫さん:日本全体を見回すと、アニーは限られた人だけが利用出来るという状況です。心苦しくもあるので、事業が拡大し、支援者の輪が広がっていってほしいと思います。今回インタビューをお受けしたのも、何か刺激になれば、という想いもあります。
孫、娘夫婦については、本当に助かっているので、これ以上のことはありません。
光子さん:家族の一員のように保育をしてもらえていると思います。孫も、渡辺さんが来ると喜びますね。
達夫さん:保育の様子をおさめた写真集を見ると、孫もスタッフの方もみんな皆、笑顔なんですよね。本当に幸せだなと思います。
ーありがとうございました。
障害児訪問保育アニーは、保育スタッフの採用や研修を、寄付を原資にして行って言います。アニーを多くのご家族に届けていくためには、皆さんからの寄付が欠かせません。ぜひ、寄付でアニーを応援して下さい。
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