児童養護施設内虐待とは何か 〜ある知的障害児からの手紙より〜
ある里親の方と、家庭養護を推進する有識者の方とお会いした時のこと。
里親の方が、有識者の方に言いました。
「うちで預かっている、知的障害のある子が、先生にお手紙を書いたんです。」
そこには、こう書かれていました。
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「私は◎才でしせつに入り ▲▲と同時に里親さんのところに来ることができました。
先生がより多くの子が里親さんにゆけるように決めてくださり、本当にありがとうございます。
しせつでは強い力を持つ子が、弱い子をイジメたり、職員が手を上げてよくぶたれたり、ぼう言を言ったりする所で、私もそのしせつにいました。
あざが出来たら、年上のお姉さんのファンデーションでかくしました」
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(注:プライバシーに配慮し、個人に関わる情報は伏せています。太字は筆者による。)
【児童養護施設内での虐待の実情】
里親さんに聞くと、この手紙を書いた子どもは、ここにある以外にも、性的虐待も同じ施設内の子どもたちから受けていたということでした。
「あるのよね・・・」と有識者の方は語ります。
「虐待されたり、養育不全の家庭の子どもたちが、一箇所に集められて・・・。しかも家庭的と言われるグループホームでさえ、5、6人を、施設によっては8人を職員1人でケアしなければならない時間帯があって、目も届きづらいのよね・・・」
児童養護施設は、虐待等で親と離れて暮らす2歳から18歳までの子ども達が暮らす、児童福祉法で定められた施設です。
多くの児童養護施設はしっかりとした運営をしていますが、中にはこうした施設内での子ども同士のイジメや虐待、職員による不適切な指導等があるようです。
子どもは児童養護施設を選択することはできず、問題のある施設も第三者評価などは通ってしまいます。
(本件については、施設名まで聞きましたが、子どものプライバシーに配慮し、ここでは記載しません)
【家庭養護への転換】
欧米では、児童養護施設内における様々な事件、またなるべく1対1で子どもと向き合っていくことが、子どもにとって最善であろう、ということで、里親や養子縁組等の家庭養護に政策的に舵を切っていった歴史的経緯がありました。
(ただ、注意すべきなのは、施設養護に対し家庭養護が常に優れている、ということではありません。ティーンネイジャー等、家庭養護よりも施設での暮らしの方が合っている、という感想もありました。また、精神疾患の重い子どもは、施設での複数人による職員体制が望ましい場合もあります。子どもの特性に合わせ、最も良いケアができる手法という観点で、適宜検討されていくべきものです。)
日本でも2017年、塩崎恭久厚生労働大臣・山本香苗副大臣のリーダーシップによって児童福祉法が改正され、また「社会的養育ビジョン」が打ち出され、社会的養護における家庭養護への転換が示されたのでした。
【始まる社会的養育ビジョンの骨抜き化】
ようやく、子ども達により手厚いケアをしていく方向に、政策転換がなされてきたかと思いきや。
塩崎厚労大臣が8月3日で退任してから、半年も経たずに社会的養育ビジョンの解体は始まりつつあります。
まず、社会的養育ビジョンで「特別養子縁組を2倍に増やす」と語られましたが、そのための民間養子縁組団体への補助額は、わずか年間3000万円弱と、桁違いに低いものになろうとしています。
また、社会的養育ビジョンを具体化する審議会においても、厚労省の腰が引けつつあることを、有識者の方々の中で懸念する声は高まっています。
情熱を持って政策の旗振り役となる政治家が消えると、組織内部では推進力が失われ、そして当初の考えとは全く異なる劣化した制度が生み出されてしまいます。
今まさに、社会的養育ビジョンは徐々に骨抜き化されつつあると言えるでしょう。
【どうすれば良いのか】
トップ1人の情熱に頼っているだけだと、今回のようにトップがいなくなったら、推進力を失ってしまいます。
多くの政治家や民間インフルエンサーが関心を持ち続ける「応援団」としてぶ厚い層をなしていれば、たとえ厚労省が逃げ腰になろうとも推進力を保ち続けることができます。
もっとも弱い立場にいる子ども達を、支え続けたいという人たちを増やし、可視化し、声をあげていくこと。
こうした地道な努力が今、求められています。
安らぎの場であるはずの施設で殴られ、障害児が泣きながらアザにファンデーションを塗らずに住む社会を、僕は実現したいと思っています。