こども手当はバラマキか
国会を通過したこども手当法案は、マスコミによって激しい攻撃を受けているようです。
いわく、4.5兆円もの巨額のお金を、金持ちにもばら撒くのはけしからん。選挙対策だ、とのこと。
本来ならこうしたことについて学者の先生ではなく、いち現場の実践者が発言するのも適切かどうか分からないのですが、あまり保育関係者から意思表示されていないようなので、私見として発言したいと思います。
まず、基本的なことなのですが、日本が現状で家族・こども政策にどれだけのお金を割いているのか、を見てみましょう。
4兆735億円ということで、対GDP比で言うと0.81%です。
一方で福祉に手厚いスウェーデンは3.12%、少子化を克服しつつあるフランスは3.02%です。
そう、全然少ないわけですね。こどもにお金が使われていない。
これにこども手当の就学前相当分を足してみましょう。本当は小学校1年生以降のお金は家族ではなく教育支出に含まれるので、4.5兆足すのは多すぎ(実際はここに足していいのは1兆程度)ですけども、まぁ全額家族支出に入れ込んだとしても、対GDPにすると1.74%にしかならないわけですね。
こども手当を足しても、少子化対策で効果をあげている外国には及ばないよ、ということなんです。
更にちなみに、これを高齢者支出と比べてみましょう。
2003年でちょっと古い資料で恐縮ですが、それでも大して変ってないので十分有効だと思いますが、このグラフ。
参照元
右から3番目の日本の棒グラフを見て頂きたい。
高齢者対こどもの支出は、8:0.7。
えっと、ばっくり言うと、11:1くらい。
日本は高齢者にこどもの11倍お金を出しているわけですね。
なぜこんなに出しているか。それは明白でして、投票率が違う訳ですね。
こどもを持つ2、30台の親なんて選挙にいきゃしません。だいたい2,30%くらいの投票率。それに比べて高齢者の方はきちんと選挙に行ってくれます。60%程度。そうすると、政治家にとっての投資対効果の比較は言わずもがな、ということですね。
これは政治家を責められません。政治に参画しなかった、我々若者世代の責任です。
さてさて、話を元に戻すと、子ども手当はバラマキか、という問いに対しては、僕は個人的にはNOと言いたい。だって今まで次世代に全然投資して来なかったわけだし。それをバラマキって言われても、ねぇ、という感じでしょう。
ただ、一点だけ改善の余地があるとするならば、サービスとお金のサポート、どっちによりお金をかけるべきか、というところです。
さっきのグラフに「現金給付」と「現物給付」という分かりづらい社会保障用語が書いてあります。簡単にいうと「現ナマあげる」と「サービスあげる」です。
スウェーデンとかフランスだと、「サービスあげる」の方が予算の割合としては高いわけですね。一方日本ではこども手当が全額「現ナマあげる」なので、「現ナマあげる」の方が格段に割合が大きくなっているのです。
「現ナマあげる」というのは、所得が低い世帯の方々にとってはとっても助かるのですが、例えば現ナマをもらったら、子育てと仕事の両立がやりやすくなるか、というと、例えばそれを支える保育所であったり、病児保育サービスであったり、そうしたサービスがあるのに比べて、弱いわけですね。
日本は2030年には労働人口が今の8割になっちゃうので、かなりピンチ。一方女性が出産と共に7割辞めています。こいつはとってももったいない、ということで、女性(も男性)も子育てしながら働ける環境をセットアップするのが急務な訳です。
その優先順位から考えると、子育てと仕事の両立を支える「サービスあげる」をもっと伸ばさないといけなくて、じゃあどうやってそういうサービスを増やしていくか、というと「子育て支援サービス市場」を拡大していけば良いわけです。そのためには、事業者がどんどん起業し、参入してこなきゃいけない。彼らに参入してもらうためには「事業として成り立つ」という状況にしてあげれば良いわけです。
というわけで、子ども手当の一部を、クーポンにして、色々な子育て支援サービスに使えるようにしてあげると、事業者が「よっしゃ、これなら成り立つぞ」と参入してきてくれるわけです。(個人的には「子育て支援儲かるぞ、ぐへへへ」みたいな人には来てもらいたくはないのですが、まぁ色んな人達が競争し合うことで良いものは生まれてくるので、そこらへんは仕方ないかなと思います。)
ちなみに子ども手当は4.5兆あるのですが、待機児童問題は2兆円あれば解決できると言われています。2万6000円のうち1万3000円くらいをクーポンにして、認証保育所や認可外保育所で使えるようにしてあげると、一気に民間保育園市場が広がるわけです。(認可保育所は既に税金を大量投入されているので、それ以外を伸ばします)
そんなわけで、最初はとにもかくにも子どもにきちんとお金使う、ということで「現ナマあげる」でも良いけれども、徐々に「サービスあげる」を増やすためにクーポンと混合していくことが良いかなと個人的には思います。
ただ、定額給付金の時もそうでしたが、クーポンだと輪をかけて事務費がものすごいことになっちゃうので、じっくりオペレーションのフローは考えないといけません。
更に国民の方も「2万6000円から減らされて、変なクーポンになりやがった。損した。」と怒らずに、10年、20年後の日本の子育てを支える産業を育成しよう、という観点を持ってくれないと、こうした政策は実行できないでしょう。
結論。こども手当はバラマキではない。こどもへの支出は、未来への投資。しかしお金の出し方は要調整。ということでしたー。異論反論、大歓迎です。
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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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