駒崎 弘樹 公式ブログ 旧ブログ記事

よくわかる政策文書の読み方講座


昨日のエントリーに「廃止という文言はないので、曲解だ」というコメントがついたので、解説したいと思います。政治というのは、そんなに甘いものではないのだ、ということを。


これまで自民党政権下の社会保障国民会議に始まって、現内閣の「税と社会保障」の一体改革検討会議まで、多くの審議会に委員として出席してきました。また、昨年の1月〜6月までは内閣府でパートタイムの官僚として働き、官僚文化的なものにある程度触れる機会も得ました。
そこで気がついたのが「政治や行政の世界で話されている言語は、僕達一般社会の言語とは異なる」ということです。
このことを説明するためには、まず日本ではどのように政策というものが作られるか、ということを簡単に話さないといけません。ある課題があったとすると、省庁は「◯◯検討審議会」というようなものを設置し、いわゆる有識者の人々を招集します。そこで官僚が準備したドラフトをもとに、課題について一定の期間話し合ってもらって、報告書を作成します。この報告書を基に、省庁内で政策が企画されて、それを国会で出して、修正があり、通過、というのがごくおおざっぱな流れです。
で、この審議会においては、報告書にどんな文言を盛り込むか、という攻防戦があります。例えば、待機児童解消のために、委員である僕が民間の新規参入がもっと盛んになれば良いと思っていたとしましょう。しかし、「新規参入」という言葉を厚労省が入れたくなかったとする。そうすると、報告書には「新規参入については、各方面からの意見に十分な配慮を行い、一層の議論を深める必要がある」というような表現で掲載されるわけです。これは一見何も間違っていないように思われるのですが、新規参入を促進したい僕としては、負けになります。なぜなら、「一層の議論」という表現になると、少なくともすぐには政策化できない、ということを念押しされている、というふうに解釈されてしまうからです。
例えば「なぜ進めないんですか!」と議員やいろいろなところから言われた時に「民間有識者の方々に集まって頂いた審議会の議論がまとめられております報告書におきまして、一層の議論を深める必要がある旨が確認されましたので、今後も継続的に審議会等で話し合って行っている段階でございまして・・・」というように、文句を言えない状態ができあがるのです。
また更に、「等」という表現も独特です。これは尊敬する元官僚の浅野史郎氏のコラムから抜粋しましょう。

官庁言語に頻繁に使われる用法である。一般の日本語の使い手なら、さらっと見逃し、聞き逃してしまうが、「等」は曲者である。「等」に何が含まれるかを精査しておかないと、えらいことになるという例は数限りなくある。官僚会話の中には、「等で読む」という表現がある。都合の悪いことは表面に出さずに、「等」の中に隠しておくことを意図的にやることもあるので、要注意である
出典:http://www.asanoshiro.org/genko/nenkinjidai/64.htm

つまり、例えば保育業界で、「当該業務は保育士をもってこれにあてる」と「当該業務は保育士をもってこれにあてる」とでは、全然違った意味になります。前者は絶対に保育士だけしかその業務はできず、保育士以外が行ったら法令違反になるのに対し、後者はいわば誰でもできるような裁量が自治体もしくは現場サイドに残されます。
このように、「等」ひとつで全く意味が変わるのが、法律・行政用語であり、それに乗っかった政治の表現なのです。
こうした文脈を踏まえて、昨日のエントリーにある「原則◯◯」という文言を考えてみましょう。原則◯◯、というのは「幾つかの僅かな例外を除いては、基本的には◯◯である」という意味です。そうすると、原則という表現を使った瞬間に、「例外」が生み出されます
法律を実施する段階においては、今度は「何が例外なのか」を厳密に定義します。なぜなら、例外を決めないと原則も決まらないからです。そこで「例外規定」というものが例えば
(1)母子家庭及び父子家庭の場合(2)保護者の障害、病気、入院等、家庭での保育に支障がきたされると当該自治体における所管課が判断した場合(3)・・・
こんな形できちんと定められるようになるわけですね。
例外規定が設定されると、それらの受け皿は必要最低限の措置となります。なぜなら、例外に対して積極的に財政措置する必要性はなくなるからです。あくまで行政は国の法律が「原則」として定めた路線に従いますし、「原則」を守っていれば、批判からは逃れられるためです。
(答弁例:「国の法律で定められた原則部分に関しては、私ども自治体においては各種施策を行なっており、例外的な一部の事例に関しては、数カ所の◯◯を置いていることで対応していっております。しかしこれはあくまで例外的な事例であり、原則としては▲▲の施策を行うことが私ども自治体に課せられた役割であり、例外的な事例には、経済・財政等の制約等を十分鑑みながら、できる限りこれを行なっていく、という方向性を検討しております」)
つまり、原則という文言によって、結局は施策の対象領域と予算配分について言及している、というふうに読み取るのです。
そして、政策を読む場合は、こうした独特な言い回しの裏に「何に金をつけようとしているのか」「何に金をつけないようにしているのか」を読み取ることが重要になってくるのです。
その結果が、こういう予算配分となって、我々に跳ね返ってくるのです。
高齢者と児童給付.jpg
さて、あまり長くなるといけませんのでそろそろ止めますが、最後に一言。
市民が政策リテラシーを身につけ、議員や行政の動きを継続的に監視し、適切な批判と代替案を提示する行為を積み重ねることによってはじめて、民主主義というものが機能するのだということを、我々は忘れてはならないのです。



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