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【ネタバレ】映画評:おおかみこどもの雨と雪


平日の昼間に行った映画館はちびっ子だらけだったが、これは子ども向けのアニメではなかった。
では「誰への」映画だったのか。
親だ。

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そう私は思う。
まずはあらすじを公式サイトより抜粋。


大学生の花(宮﨑あおい)は、彼(大沢たかお)と出会ってすぐに恋に落ちた。やがて彼が人間の姿で暮らす”おおかみおとこ”だと知ることになったが、花の気持ちが変わることはなかった。そして一緒に暮らし始めた2人の間に、新たな命が生まれる。雪の日に生まれた姉は≪雪≫、雨の日に生まれた弟は≪雨≫と名づけられた。
雪は活発で好奇心旺盛。雨はひ弱で臆病。一見ごく普通の家族だが、生まれてきた子供たちは、「人間とおおかみ」のふたつの顔を持つ、≪おおかみこども≫だった。そのことを隠しながら、家族4人は都会の片隅でひっそりと暮らし始める。つつましくも幸せな毎日。しかし永遠に続くと思われた日々は、父である”おおかみおとこ”の死によって突然奪われてしまった―――
取り残された花は、打ちひしがれながらも「2人をちゃんと育てる」と心に誓う。そして子供たちが将来「人間か、おおかみか」どちらでも選べるように、都会の人の目を離れて、厳しくも豊かな自然に囲まれた田舎町に移り住むことを決意した。

そしてあらすじの後のストーリーを追っていこう。
人間(=社会)とおおかみ(=社会の外側)である子どもたちを育てようとする花は、都市(=社会)に疎外される。(子どもがうるさいと、夜中の公園であやしたり、行政に虐待を疑われたり。)
そこで、富山県の山間地(監督の出身地と思しき村)に引越しを行う。社会と社会の外側との間、社会にとってのマージナル(周縁的)な空間へと。
幼い頃は男の子顔負けだった娘、雪は学校という社会化装置に順応し、女の子の友達の趣味に合わせる(ジェンダー規範を身につける)ようになる。雪は人間(=社会)の内側に成長していく。
一方口数の少ない息子の雨は、学校には順応できず、次第に山の主である狐を「先生」と呼び、自然のルールの学習に喜びをみいだしていくことで、社会の外側に向けて成長する。
このような子どもたちの成長を、母親として温かく見つめる花。しかし子どもたちは母のもとから去っていく。
雪は「おおかみである秘密」を、好意を寄せている男子に打ち明け、受容されることで精神的に。そして全寮制の中学校に進学することで、物理的に。
雨は「先生」が行なっていた山の調和的マネジメント(それは社会の内側にいる花には理解できない)が、「先生」の死によって失われる事態に、自ら「先生」の後を継いで役割を引き受けていこうとする。すなわち、おおかみとして、永遠に山で生きることを選択する。
花は叫ぶ。「私はまだ、まだ何もしてあげていないのに」と。しかし子どもたちは花が手作りで創った小さな、そして温かい家と決別し、それぞれの人生を歩む。
花は、自らの父が死の直前に言った言葉を、反芻する。
「どんな時でも、笑いなさい」
笑う、とはすなわちそれを受け入れ、肯定せよ、ということ。
作中、花は何度も人生の節目節目において、笑う。
最愛の子どもたちを喪失した時も、泣き続けた後、笑うのだった。
私はここに、親というものを、いや親になる、という私達人間のありようを見る気がする。
子育てというのは、喪失というゴールに向けて懸命になる不思議なプロセスだ。
どんなに愛しても、娘は他人の嫁になり、息子は自分の理解できない領域に飛び立ってしまう。
ついさっきまで、「大丈夫して」と膝に抱きついてきた息子。
ついこないだ、熱を出しておぶって医者に連れて行った娘。
早くこんな不自由な生活から楽になりたいと願いながら、あんなに苦労した日々がなぜか懐かしく、愛おしい。
始めから親である人間はいない。私たちは望むか望まないかに関わらず、徐々に親になる。時に気づいたら親の気持ちになっている自分を発見して愕然としたり、時に良い親になりきれない自分を恥ずかしく思ったりする。
自分の時間や情熱や思いを差し出して、結局は喪失するということが分かりつつも、それでも子どものために全力を尽くそうとする不思議さ、大変さ、幸福。
人は、親という役割を出産というイベントで急に持たされ、そこから徐々に親になっていく。他者のために生きる、というこれまで経験し得ないプロセスを経ながら、私たちは変化する、成長する。若さを失いながらも。
この親になるというプロセスを寓話的に語ったのが、本作品だったのではなかろうか。
主人公の花が過剰に無垢であるがゆえに、リアリティのない男性のグロテスクな母性願望だ、というフェミニズム的批判もあるだろう。あるいは自然環境や村のコミュニティが都市部から見たステレオタイプなものだ、という批判もあるかもしれない。
そうした批判に関しては一部同意できるところはあるにはあるけれど、それでもおいおい泣けてしまったのは、この「親になること」の寓話がよくできたものだったからだと思う。
最後に雪のナレーションを通じて花は言うのだった。
「あなた達と過ごした12年間は、お伽噺のように一瞬でした。」
全ての子育てに言えないだろうか。
そしてお伽噺の只中にいる自分は、こんな風に思う。
老いながら、いつか必ず喪失を味わうとしても、いやだからこそ、あなた達と過ごす日々は、とても素晴らしいよ。
まるでお伽噺のように。



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