書評「当事者の時代」:ポスト311必読の書
素晴らしいの一言。と同時に、読んで痛みを覚えずにはいられない。
巷に溢れる「マスゴミ批判」とは一線を画した、その構造的問題と、それが私達に繋がっていることを浮かび上がらせた渾身の一作。
なぜマスメディアは、自らがエスタブリッシュメントでありながら、存在しない「市民」目線で権力糾弾することをジャーナリズムだと勘違いしているのか。彼らがバカだから?違う。そうならざるを得なかった歴史的な背景があるから。しかしそのままで良いのか。それも違う。彼ら自身もわかっている通り、もはやそうした旧来型の報道では何も生み出さない。ではどうしたら良いのか?
こうした問いに対し、著者は歴史という横糸と、自ら属していたメディアのミクロな日常を行き来して、立体的に私達の思索を深める。
実はこの本を読みながら、私は痛みを感じていた。本書の重要なテーマ「マイノリティ憑依」(幻想の弱者を勝手に代弁し、体制や反対者を糾弾すること)は、実は我々NPO業界にこそ、蔓延しているものだからだ。
私達NPOは、基本的には課題を抱えた人々の課題を解決するサービスを提供する。またそうした課題を生み出す構造を批判する。例えば、ホームレスに炊き出しをしながら、貧困を生み出す社会構造を批判したり、障がい者に働く場所を提供しながら、障がい者が就労しづらい社会を批判したり、というように。これは一見別に悪くないように見える。
しかしこれは「マイノリティ憑依」と常に紙一重の危険性を持つ。例えば私の属する保育業界は、非常に古くからの利権構造が温存されている業界だ。例えば既存保育業界団体は「子どもの目線にたった政策を!」「子どもの育ちが最優先なのに、政府はそれをないがしろにしている」と、我こそは「こども」の代弁者である、という立ち位置からの政府批判を繰り返し、規制を温存させ、新規参入を阻害することで、自らの業界の安定性を保持している。
「子ども」という弱者の立場に立つように見え、しかし現実はそれを自らのイデオロギー(及び利権)を無意識に正当化するツールとしてフル活用している。(しかし彼ら個人個人と話すと、普通の良い人だったりする。)
「当事者を代弁し、社会構造の歪みを是正する」という使命を帯びたNPOには、常にこうした「マイノリティ憑依」化する罠が待ち受けている。
では一体どうしたら良いのか。本書は私達に思考を求め、安易な答えを用意してはいないが、私自ら考えたことを備忘録的に記したい。私自身が幾度もこの罠にはまり、そして今後もその危険性を抱え続けるから。
(まだ十分に練られてはいないが)それはいくつかのフレーズに要約できるように思う。
①「行政批判」ではなく「新サービス創造」
②「抽象論」から「具体的対案」
③「糾弾」から「対話による相互啓発」
①は、安易な行政批判(そしてそれは非常に気持ちいい)を慎み、「だったら自分達でやってみようぜ」というスタンス。これはソーシャルビジネスに通じる。
②は、「これだから日本の政治はダメなんだ・・・」的な抽象的批判を脱し、「この法案の5条にこの文言を入れ込むともっと良い」というような具体的対案。
③はマイノリティを勝手に代弁して誰かを攻撃するのではなく、先入観を排した対話を通じ、いわゆる「弱者」の視点をインストールしてもらえるよう、促しながら、その対話の中で自らも学んでいく、という姿勢。しかし手間も時間もかかるこうした対話には、ITという補助ツールが欠かせない。ソーシャルメディアを介した新たな「対話」手法を開発していくことだろう。
ポスト311をどす黒く覆った、東電(≒政府)不信と原発を巡る相互糾弾社会の出現。こうした社会を主体的個人として生きるために、本書を全ての人々に手にとってもらいたい。本書を読んだ後には、自分は無垢な傍観者で「何でも批判できる」という思い込みは捨てざるを得ない。
そして特に、我々社会問題に関わる人間には、必読の書であろう。代弁する権利という諸刃の剣を手に持つ我々には。
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