駒崎 弘樹 公式ブログ 旧ブログ記事

311個人的振り返り


自分のためのひとりごとと、断片的まとめ。


1年前の今日、僕は自分の人生が変わったことを知った。妻の故郷の福島で住む妻の家族は、ガスも水も止まり食料も買えない状況で苦境に陥り、何とか車を那須塩原で乗り捨てて、新幹線で今僕達が住む川口市に辿り着いた。家族が被災し、行きなれた福島が日本の歴史上類を見ない悲劇に襲われていた。まるで現実ではないようだった。
あの地震の日、病児保育は子どもたちの家で行われていた。小規模保育園である「おうち保育園」でも日常の保育が行われていた。地震が彼女たちを襲った時に、タワーマンションの上層階で死を覚悟しながらも、子どもたちを守ろうと必死の努力をした保育スタッフ。保護者の帰りを深夜まで待ち続けた保育スタッフ。また彼女たちの全員が帰宅するまで帰らなかった本部の事務スタッフ。全ての社員に敬意と感謝を表したい。
当日、僕が帰ったのも深夜と明け方の間。妻とまだ乳飲み子の娘の寝顔を見たら、泣かずにはいられなかった。悲しかったのか、ほっとしたのか、つらかったのか。よく覚えていない。
311後に交通網は混乱し、サービスも一時止めなくてはいけない等の混乱があり、経営も逆境を迎えた。イレギュラーな対応をせざるを得ない時期に、クレームの嵐が来るかと思ったが、利用会員の方々は僕達の試行錯誤に理解を示して下さり、それどころか大いに励ましの声を多数送って下さり、運営は徐々に落ち着きを取り戻していった。利用して下さる人々との、クライアント/サービサー関係を超えたところにある何か。僕達が育み、そして育み続け無くてはならないのは、それだということをはっきりと確信できた。
妻の友人たちから悩みのメールが入る。子どもたちを外で遊ばせられない。子どもたちの落ち着きがなくなり、小さな物音でもびっくりする。遊べなくてイライラして乱暴する。そうした声に、娘を見ながら考えた。もしこの子が同じ状況になったら、自分はどんな風に思うだろうか。
何かしなくちゃいけない。でも何を。ちょうど中央区勝どきで、子育て支援総合施設「グロースリンクかちどき」を運営し始めていたところだった。そこに屋内公園「プレーホール」があり、日々子どもたちの笑い声で賑わっていた。
そうだ、これが福島にあれば良いんだ。そうして福島に屋内公園を創るプロジェクトが始まった。苦労につぐ苦労。しかし支えて下さる人々の救いの手があり、郡山市の西友さんの店舗内で「ふくしまインドアパーク」を12月に開園できた。試しに自分の娘を遊ばせてみたら、きゃっきゃっとトランポリンで跳ねていて、福島の子どもたちと笑いあっていた。笑いながら泣きそうになった。
福島から避難してきた母子世帯も多かった。保育団体の強みを生かして、彼女たちの子どもを一時預かった。その間に病院に行けたり、就職活動できたりするからだ。100回を超える保育を行った。親たちも子どもたちも大きなストレスを抱えていたが、人に頼って良いんだと知ると、随分楽になったようだった。
問題は福島のことだけではなかった。ひとり親支援を以前から行なっていたことから、子どもの貧困について気がかりだった。震災によって親を失くし、親がいても仕事をなくしたケースは多い。すると世帯所得減少が覆いかぶさり、教育投資機会が失われる。子どもたちの未来が閉ざされる悪循環。容易に想像できた。
そこで、旧知のベネッセさんに連携の話を持っていった。かたや大企業で、かたや小さなNPO。頼むこちらもダメもとだったが、扉は開いた。ベネッセ経営陣も動いて下さり、被災地の困窮中高生達800人への進研ゼミの無償提供が決定された。現地を飛び回ってくれた被災地チームの職員のお陰で、多くの子どもたちのエントリーがあった。石巻には学習室もオープンし、山元町では学校で冬期講習も担い、通信に加えて対面での支援も行った。
彼らの書くエントリーシートを読み、胸が詰まった。「震災の時に、保健師さんに助けてもらった。だから私も将来保健師さんになって、この街に貢献したい。」「今まで一人で育ててくれたお母さんに車を買ってあげたいから、大きな会社に勤めたい。だから一生懸命勉強したい。」
中高生たちの未来に懸命に向かう姿に打たれた。彼らは見ているのだ。懸命に生きる大人たちの背中を。ならば、僕達が自ら見せなくてはならない。懸命に生き、貢献する自分達の背中を。
同時に政府にも提案を行った。休眠預金を活用した、マイクロファイナンスの仕組みだ。預金者にはいつでも返還できるようにしながら、これまで銀行の中に滞留し続けていた休眠預金を、被災地の企業や子どもたちの奨学金に貸しつけていくプランだ。既にイギリスや韓国では実現している仕組みで、日本でもこれを行えば新たなセーフティネットを確立できる。
提案から一年後、政府が取り上げてくれたが、政府叩きの好きなマスメディアからは「政府が国民の預金をネコババ」と扇情的に報道された。
この1年、自分なりに、自分達なりに懸命に走った。走りすぎてスタッフたちに過大な負担をかけ、迷惑をかけてしまったと思う。被災地支援事業のスタートにより、経営計画も大幅に狂った。多角化による経営資源も分散し、事業家としては失格だった。
それでも、この年には動かなくてはいけなかったのだと思う。でなければ一生後悔した。
この1年は勢いで突っ走った。今後は、事業を継続的に運営し、真に復興に資するポイントを押さえなくてはならない。寄付も1年を過ぎ、激減するだろう。事業環境が厳しさを増す中で、僅かな経営資源を集中し、本当に意味のある支援でテコを効かせなくてはならない。そしてもっと被災地の住民の方々を巻き込んで、我々が主役なのではなく、被災地の方々が主役の事業を創っていかなくてはならない。
そしてそれを下支えする仕掛け、休眠口座基金を実現していきたい。政府だけでは政権の不安定さから、抵抗勢力を突破できない。民間からムーブメントを起こし、金融の恩恵を受けられない人々をしなやかに支える仕組みを実現できるよう、後押ししていきたい。
自分がどこに向かっているか、時々分からなくなるが、それでも大股でどこかに走っていることだけは確かだ。その先に何があるかはわからないけれど、とにかく目の前に現れる課題と戦い、困っている人達が、少しでも笑えるようになれば良い。
自分が正しかったどうかは、後で考えよう。
この1年、寄付を始めあらゆる意味で支えて下さった人々に、感謝。
震災で犠牲になられた、ひとりひとりの、そして全ての方々に、黙祷。



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当記事はNPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹の個人的な著述です。
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