サウナーの聖地「しきじ」巡礼記 〜そこはもはやサウナでは無かった〜
イスラム教徒が日々メッカの方向に祈りながらも、いつかメッカに巡礼したいと願うように。中世キリスト教徒がいつかイエルサレムに行って全ての罪を赦されたいと願うように。
サウナーならばいつかは行って全ての汗を流したいと願う場所がある。
それが、サウナしきじ。
あらゆるサウナランキングで常に上位ランクされ、熟練サウナーから「聖地」の異名をとる店舗だ。
今回、サウナー仲間のアソビュー社長山野くんと、ついにしきじに巡礼できることになった。
【東京駅から1時間で行けちゃう】
しきじは静岡市にある。東京から新幹線で1時間。6000円ほどのコストで行けるので、意外に近い。
駅からタクシーで7、8分。しかしここでいきなりサウナに入る、というのはしきじに失礼である。
まず入る前に走って、我々の本気を示さねばならない。
炎天下の中、おっさん2人でランニングを決行。
(荷物はしきじのロッカーに)
まずは静岡が誇る遺跡、「登呂遺跡」にダイブイン。
登呂遺跡は稲作と集落がセットで見つかった初の遺跡だ。弥生時代のバイブスがビンビン来てて、土器ドキしてくる。
そして海沿いを走る。東京だとこの40度近い日差しの中走るのは地獄以外の何でも無いが、太平洋を見ながらだ爽快になるから不思議だ。
そしてランを続けると、途中に「ヤマサン農園直営カフェ」がある。
ここのイチゴかき氷がヤバイ。もうほとんどイチゴだけで、氷が無いから。
濃ゆい濃ゆい。一本取られた。
食べ終わったら来た道を戻ってラン。しきじに戻る頃には、もう全身汗だくである。
けれど、ここまでしてこそ、我々は聖地に臨めるのである。
【祈りの間】
いざ、聖地に一歩踏み出してびっくり。
長方形の入浴場は、全体でも20メートル×10メートルほどで広くない。
しかしその真ん中に10人分の椅子があって、そこにぎっしりと全裸の男たちが一言も発せず座っているのだ。
それはまるで祈っているかのようだ。
サウナーにとって、このベンチはサウナ→水風呂の後、サウナトランスを感じるための重要なツールで、ここでゆったりと座っている時にトランスが「訪れる」ので、非常に重要な場所であることは間違いない。
「早くあそこで整いたい」
(注:整う=スーパーリラックスしてサウナトランスを迎えること)
【フィンランドサウナ】
我々は欲求を抑えられず、2つあるサウナのうち1つ、「フィンランドサウナ」に入室した。
入ると、すぐに気づいた。温度が高い。温度計を見ると110度。かなり人間の限界を攻めてきている。
じわじわと吹き出る汗。そう、これだ。この感覚。素敵だ。自分の中から、不浄なものが出ていく感覚。走ったことで内側から熱いのと、外側から熱いのとがマリアージュし、僕たちの体はもう完全に求めていた。
水風呂を。
しかしこの時はまるで気づいていなかった。水風呂がいつもの水風呂とは、全く異なるものであることを。
【飲める水風呂という奇跡】
サウナー以外の国民は、サウナは熱いドライサウナで汗を流すものだと思っている。半分は正しく、半分は間違っている。
サウナの主役は、実はサウナでは無い。サウナの主役、それは水風呂である。
十分に熱された後に水風呂に入り、急激に体温を下げ、自律神経をハックするのだ。
我々はフィンランドサウナに入った後、しきじの水風呂に入った瞬間、驚きを隠せなかった。
「やさしい・・・」
まるで包み込まれるような、そして透き通るような水に包まれ、今まで味わったことのない水風呂体験に晒されていた。
どういうことなんだ。
排出口から湧き出て注がれ続ける水をすくい、口に入れてみた。
「お、美味しい・・・っ!!!!」
そう、飲めるのだ。しかもミネラルウォーターのように美味しい。
飲める水風呂。
そのくらいの上質な水に包まれ、そこで至福の時を感じられたのだった。
しかしこの後我々は、しきじの凄さを、真に知ることになる。
【臨死体験可能な薬草サウナ】
もう一つのサウナ。薬草サウナ。
入ると湿度がすごいことになっている。さらに薬草の匂いが鼻腔を貫く。
ジャングルのようなハードさに、一瞬目眩がするが、しかしここで耐えるのがサウナーだ。大丈夫。
とそこに、プシュウウウウと音がしてきて、蒸気がどこからともなく立ち込めてくる。
「あつ、あ、いたいいたいいたい!!!!!!」
ものすごく熱い蒸気が肌を刺してくる。
やけど一歩手前だ。
隣にいる山野くんを見ると、パニックになって変な声を出している。
落ち着け、俺。ここでパニクったら、サウナーとしての立つ瀬がない。
全集中の呼吸だ。
と鼻から息を吸うと、鼻腔が焼かれる。
ヤバイ、息が思うようにできない。
これは本格的にヤバい。
何の罰ゲームなんだ。
もはや薬草サウナでは無く、確実に殺しにきてる。
もうダメだ、死ぬ。
そう思ってダッシュで出る。しかし足の裏も熱くて、絶叫しながら全裸で薬草サウナから逃げ出すことになった。
そしてそのまま飲める水風呂にダイブイン。
「あぁ、救われた・・・!!!」
命が助かった嬉しさと、火傷しかけた体を冷やしてくれる水風呂の気持ちよさで、思わず変な声で喘いでしまうくらいのインパクトだった。
それにしても、明らかに行き過ぎてる。もう何かの基準をオーバーしてるのではないか。コンプラ的に不安だ、と山野くんと話し合っていた時に気づいたのだった。
これは、水風呂のために最適化された戦略だ、と。
狂ったように熱い薬草風呂も、水風呂の気持ちよさを最大限引き出すためのフックだったのだ。現に薬草風呂の後、一も二も無く水風呂のことしか考えられなくなり、赤子が母の乳房を求めるかのごとく、砂漠民がオアシスを求めるがごとく、水風呂を求めざるを得なくなっていた。
全てが、水風呂を最大限味わうためのUX(ユーザーエクスペリエンス)の設計だったのだ。
サウナではない。
水風呂を体験するためのエンターテイメントだったのだ。
【ビール&さわやかハンバーグ】
サウナ→水風呂を計4ターン往復した我々を待っていたのは、妙にでかいビールだった。
汗を絞り出し尽くした後のビールに勝る恵みは、無い。
そして我々は、聖地を後にしたのだった。
だがここで終わりでは無い。ちょうど夕方だったこともあり、ハンバーグの「さわやか」に行くことに。
「さわやか」は静岡にしかないハンバーグレストランチェーンだ。30店舗を超える規模を物が、全て静岡県内。ドミナント戦略のお手本のような企業だ。
ここでの売りは、「げんこつハンバーグ」。半生のハンバーグの程よい口あたりとボリューム感が高い満足感を与えてくれる。静岡県民と通りかかる県外の方々から根強い人気なのも分かる。
【最後に】
サウナーたるもの、一度はしきじに行くべきだ、ということを身をもって知った。
また、静岡はしきじだけでなく、海・登呂遺跡・いちご・さわやかと押さえるべき観光資源が豊富で、サウナとコンボで楽しめることも大きな発見だった。
騙されたと思って体験してみてほしい。
以上、サウナー経営者たちによる、聖地しきじ巡礼記なのであった。