駒崎 弘樹 公式ブログ 事業ニュース

ガチムチIT起業家が、保育系NPOでインターンをして気づいた3つのこと

 春は出会いと別れの季節。

 2018年3月、おうち保育園や障害児保育園ヘレンで、卒園・転園で涙の別れの光景が広がるその横で、同じようにフローレンスを卒業したひとりのメンバーがいます。

 彼の名は廣田達宣(ひろた たつのり)。

廣田はもともと教育系のITスタートアップで創業メンバーとして働いていました。

身長185cm、趣味は筋トレ。

「筋トレで身体づくりしたいんだけど、どう目標設定するのがいいかな?体脂肪率?筋肉量?」

という僕からの質問に

バーベルの重さですね。よっしゃあ、今回はこれくらい上がったぞ!というのが一番テンション上がりますよ

と答える近距離パワー系メンズです。

そんな彼は3月までの1年間、社会人インターンとしてフローレンスでフルタイムで勤務していました。

その経歴と風貌を見ると、なかなか保育の現場に似つかわしくない廣田が、なぜ保育のNPOであるフローレンスで、どっぷり1年間インターンをしていたのでしょうか?

そこには今の時代だからこその「当事者予備軍」としての背景と、そして、アントレプレナーとしての熱い想いがありました。

フローレンス広報岡水が根掘り葉掘り聞き出すインタビューをどうぞ!

きっかけは「このまま結婚して幸せになれるのか?」

岡水

ひろたん、まずはフローレンス卒業おめでとう!1年間、あっという間でしたね。
(※ひろたん…社内での廣田のニックネーム)

 

廣田

ありがとうございます。本当にあっという間で、充実した1年間でした。

 

岡水

今回は「社会人インターンがフローレンスで1年間働いてどうだった?」ということで、インタビューさせてもらえればと思ってます。さっそくですけど、そもそもフローレンスに来ることになったきっかけに興味津々です。 以前は教育系のスタートアップで働いていたんですよね?

 

廣田

はい。manabo(マナボ)という、大学在学中に共同創業した、教育×ITのスタートアップで5年ほど働いていました。

岡水

えー!学生起業で経営者。すごい!

 

廣田

そうですね、ただ、いろいろあって、最後の方は、経営をしていたというわけではないんですよ。このあたりはいろいろ重い話もあるんですけど(苦笑)

 

岡水

ふむふむ。じゃあそれはこの後で聞くとして……フローレンスで社会人インターンしようと思ったのは、なぜ?

 

廣田

実はですね……一番最初のきっかけは、妻へのプロポーズなんです。

 

岡水

なにその気になる話!

―結婚式の二次会にて、廣田とそのパートナー

 

廣田

実はプロポーズを考え始めたタイミングで、「保育園落ちた日本死ね」の記事がネットで話題になって。

※保育園落ちた日本死ね…2016年、匿名ブログで、子どもが保育園に入れず職場復帰できなかったお母さんが日本社会に対する不満を吐露し、話題になった

 

岡水

あの一人のお母さんの魂の叫びから日本が動いていったよね。駒さん(代表駒崎)も保育士の処遇改善や認可の規制緩和を先頭きってロビイングしてました。

 

廣田

僕も彼女も、お互い「仕事も子育てもがんばりたい」というタイプなんです。それで「これは他人事じゃないぞ」と思って、いろいろ調べました。

すると待機児童以外でも、保育や子育ての分野って課題が山積みなんだなってことに気がついて。果たしてこのまま結婚して、自分たちは幸せになれるんだろうかと。

岡水

なるほど。プロポーズしようと思っていたところに冷水を浴びせられたみたいな衝撃だったんですね。

 

廣田

でも、どうしても彼女との結婚は諦めたくなかったので、いろいろ考えて……それじゃあ、自分たちが将来直面する保育分野の課題を解決するためのスタートアップをやればいいんじゃないか、という結論にいたったんです。

とはいっても、保育のことは全然知らないし、勉強しなくちゃいけないなと。勉強するなら、保育の分野で最先端のフローレンスでできないかな、と考えたのが、社会人インターンの受け入れをお願いした経緯です。

岡水

まさに起業家視点に振り切ってるひろたんらしい思考……!彼女との幸せな未来を考えたら、社会課題の解決を考えざるを得なかったと。

 

廣田

ありがとうございます。このあたりについて詳しくは「5年前に共同創業したEdTechスタートアップを退職しました」というブログ記事をご覧いただければと。

 

「社会人インターン」という新しいキャリア

岡水

社会人インターンって他の会社だとそれほど一般的ではないと思いますが、そういうかたちでフローレンスで働くことに、不安はなかったですか?

 

廣田

正直いって不安はけっこうありましたね。僕は大学卒業後に就職せず、自分たちで立ち上げた会社がファーストキャリアでした。言ってみれば自分達がゼロから作り上げた組織で、素のままで過ごすことしか知らなかったんです。

「カルチャーができあがっているところに入って合わせていく」というのは初体験だったので大変だろうなと思ってたし、社会人インターンという位置づけも珍しいし、これまでのキャリアを踏まえると期待されることも大きいだろうし。

 

岡水

うん、めちゃめちゃみんな期待値高く待ってました(笑) 実際に入社してみてどうでした?

 

廣田

入ってみたら、フローレンスのメンバーが本当にみんないい人で。なんというか、良い意味でおせっかい焼きなんですよね、みんな(笑) 新しく入ったメンバーを、いろいろとかまってくれて。おかげで不安に思っていたようなことはなかったです。

そういった周囲の優しさもありつつ、僕自身、最終的に組織に自分を合わせることができたということも、自信になりました。

 

―フローレンススタッフと

 

行政との協働で学んだ「異文化組織の巻き込み方」

岡水

入社後はどんな仕事を担当していたか教えてください。

 

廣田

最初にやったのは「こども宅食」のファンドレイジング(資金獲得)と広報です。

※こども宅食……文京区にて、ふるさと納税を活用し、生活の厳しい子どもの家に定期的に食品を届ける事業。食品の配送を活用し、ご家庭の困りごとを聞いたり、必要な支援につなぐことをねらいとしている。

 

廣田

新しく事業を始めるために、ふるさと納税を活用して寄付金を集めるというのがミッションだったのですが、2000万円の目標に対して、最終的には8000万円以上の寄付をいただくことができました。

―こども宅食のふるさと納税クラウドファンディグの画面。現在は2018年の新しいクラウドファンディングを実施中

 

廣田

また、メディア露出も80件以上になり、認知度もしっかり高められたのではないかと思います。

「勉強させてください!」ということでフローレンスに来たとは言いつつも、最初はまずしっかり貢献したいなと思ってました。なので、目標達成できて本当によかったです。

 

岡水

たしかに、サイトオープン前から長丁場にもかかわらず一度もアクセルを緩めなかった宅食チームは見ててしびれました。

ちなみに、前職のスタートアップとは勝手が違うところもたくさんあったんじゃないかと思うんですけど、特に大変だったのはどんなところですか?

 

廣田

こども宅食はフローレンスだけでなく、文京区役所を含めた複数の団体が一緒に取り組む事業なんです。価値観や考え方の違う団体のあいだでコミュニケーションを取って、合意形成して、という過程は難しかったですね。

僕がスタートアップ出身なこともあって、特に文京区役所の皆さんとは、考え方や言葉の使い方など素のままだとなかなか伝わらないことも多くて、何度もぶつかったりしました。

けっこう苦労しましたが、色々な試行錯誤を重ねて、最終的には「一緒に仕事ができてよかった」と厚い信頼を寄せていただけるようになりました

僕にとっても本当に勉強になりましたね。

―記者会見の直前に廣田のスーツのズボン(お尻部分!) が破けるという思わぬハプニングは伝説に。気合が、全筋肉に、みなぎる……!

 

岡水

たしかに、行政の方々と同じプロジェクトチームで仕事するというのは、NPO業界でもまだ事例が多くないし、お作法やマニュアルが存在しないですよね。

 

廣田

行政との関わりという点では、フローレンスがロビイングで制度を変えたり、事業を全国に広げていっている様子を間近で見られたのも、とてもいい経験になりました。

ロビイングって、おじさんたちが料亭とかで揉み手をしながらこっそり話して……みたいなイメージがあったんですけど。

 

岡水

ああー、NPOもロビイングもよくわからないからあやしさが先行するっていうのはよくあることです。

※ロビイング…企業や業界団体、市民団体などが、制度化や政策提言などを目的に政治家にはたらきかけること。

廣田

でも、駒さんの行政や政治家の方とのコミュニケーションを見ていると、もっとずっとフラットに、現場を知る人間として「こうしたほうが良いです」というのを提案している。社会問題に対して共感してくれている人がたくさんいて、それで実際に社会も変わっている。

こんなふうに自分たちのやっていることを国の制度にして他の事業者にもやってもらうっていうのは、株主への利益還元を求められる上場企業には難しい。NPOだからこそできることなんですよね。

―「話していたら熱くなってきましたね」と言って脱ぎだす廣田

 

岡水

ひろたんのブログでも熱く語ってたよね。

 

廣田

はい、詳しくは読んでいただけるとうれしいです(笑)

 

 

保育士としての勤務を通して気づいた、保育という営みのクリエイティブさ

岡水

「保育について学びたい」という目的もあって入社したわけですが、仕事の中でその目標は達成されましたか?

 

廣田

はい。障害児保育の利用者マーケティングや、病児保育の採用マーケティングなどを担当しましたが、一番大きかったのは保育士としての現場勤務経験ですね。

おうち保育園やみんなのみらいをつくる保育園、それから経堂の一時保育カムパネルラで、保育ヘルプとして働かせてもらいました。

最初はちょっと戸惑うこともあったんですよね。保育の現場って、「数字の目標を達成!」とかないじゃないですか。僕はそういう世界で生きてきたので、成果が数字で見えない仕事って、どうやって取り組んだら良いのかなあと。

岡水

たしかに、子どもの成長ってもっとも「数字を追う」ことと遠いかもしれない。「◯◯くん、成長率120%で前週を大きく上回ってるのでOK!」とか、ないわ。

 

廣田

でも現場で保育の仕事をしてわかったのは、逆にそういう、わかりやすい数字の目標みたいなものがないからこそ、日々の保育、子どもとの関わりに、いくらでも創意工夫ができるんだなって。保育ってこんなに奥が深くてクリエイティブな仕事なんだ!って驚きました。

実際に現場で保育している先生たちも、子どものために自分たちはどうするべきか?というのをすごく真摯に考えている人が多くて。プロフェッショナルだなあと思いました。

 

岡水

保育スタッフの皆さんとも、仲良くなったんですね。

 

廣田

同じ日にフローレンスに中途入社した先生たちと飲みに行ったりもしました。

驚いたのは、みんな口を揃えて「フローレンスに来て圧倒的にホワイトになった」っていうんです。それは労働時間もそうですし、職場での人間関係もそう。保育の業界はまだまだ労働環境が良くないんだなあと実感しました。

 

岡水

そうなんですね。たしかに「おうち保育園」「みんなのみらいをつくる保育園」は離職率も低いです。

 

廣田

ほかにも、フローレンスは、保育スタッフもいろんなキャリアを考えることができるのがいい、って言ってましたね。それまでは一般職員→主任→園長という縦のキャリアしかなかった。だけど今は、小規模保育、認可保育所だけでなく、障害児保育とか病児保育、それに保育も訪問型とか施設型とか、いろいろな横のキャリアがある、って。

 

岡水

全国でもこれほどいろんな保育現場を持っている事業者は少ないかもしれないですね。

―足繁く通い保育の現場に入った、カムパネルラ経堂のスタッフと

 
フローレンスで働いて知った、働き方を変えることの意味

岡水

働き方と言えば、フローレンスでの経験をもとに、長時間労働じゃダメなんだ、働き方改革には意味があるんだ!っていうブログも書いてましたよね。

 

廣田

はい。「週100時間働いていた元起業家が感じた、働き方改革が業績を上げる4つの理由」という記事ですね。前職では業界全体のノリや共同創業者であるということもあってバリバリ長時間労働で。「時間あたり生産性×労働時間=アウトプット、なら生産性高く長時間働くのが1番」とか思ってました(笑)

 

 

岡水

カラダだけじゃなく脳みそもマッチョだったのねー(笑)

 

廣田

ですね(笑) フローレンスで働いて、業績を上げたい会社こそ働き方改革をするべきだな強く感じました。

―マッチョなポーズのリクエストに「最近はあまりトレーニングできてなくて……」と切なそうに語る廣田

 

廣田

詳しくは、ブログにいろいろ書いてあるんですけど、ひとつ例をあげると、先ほど話の出たこども宅食の寄付ページのサイトオープン前、僕のある担当業務がボトルネックになって、もしかしたら予定通りオープンできないんじゃないか?となったことがあって。

 

岡水

そんなピンチがあったとは…真っ青になりますよね。

 

廣田

「これはヤバい」と思って、上司の宮崎さんに「こんな状況で、ちょっとピンチです」って言ったら、「了解」と言って、すぐに他の事業部から協力できるメンバーを引っ張ってきてくれて。

こういう対応って、全員が毎日がっつり残業しているような、余裕のない組織だと、できないんですよね。もしみんな長時間労働でヘルプに入る余裕もなかったら、声をかけても「無理です」って断られて、結局寄付ページも予定通りオープンできてなかったんじゃないかなと思うんです。働き方に無理のない環境だと、こういう、ボトルネックが見つかったらそこを強化する、ということができるんだなあと。

 

岡水

誰かひとりが無理して頑張るみたいなやり方は、フローレンスでは全然美徳ではないですよね。

 

廣田

他にも、時間に余裕があると業務のマニュアル化が進められて将来同じような業務が出てきたときすぐに成果が出せるとか、子育て中のママやパパみたいに「能力は高いけど働き方に制約がある」という人を採用しやすくなるとか、いろんなメリットがあることを痛感しました。

いま新しい会社の創業準備中なんですが、次はこんな働き方をする組織を作りたいですね。

 

岡水

おおー、すごい!!価値観が変わったんですね。

廣田

そうですね。あとちょっと変な話ですが「神様からの宿題をやりきったな」って思えたのも大きかったです。

 

岡水

えっ、どういうこと?

 

廣田

最初に言ったように、前職は共同創業したベンチャー企業だったんですが、3年ほど前に、役員から降格したという経験があったんです。

 

岡水

自分が創業した会社で、それはつらかっただろうね……

 

廣田

つらかったですね。まあ原因はいろいろありましたけど、一番大きいのは自分の能力不足だったなと思っていて。期待値調整力とか、工数見積力とか、交渉や根回しの力とか。僕は無宗教ですが、そういう色々な力不足を神様が「宿題」として僕に課してくれたのが役員降格という試練だったのかなと。

それがフローレンスで1年間、これまでに話した「人生初の出来上がった組織への就職」とか「根回しや交渉をフル活用した行政との折衝」とか「限られた時間で成果を出すためのチャレンジ」とかをしながら成果を出すために全力で走ってきて。振り返ってみたら、そういう自分の弱み、神様からの「宿題」を、いつの間にか克服していたな、っていう。

 

岡水

ひろたんかっこいいじゃん……いい話……。でもきっとそれは、失敗から逃げずに走り続けてきた、ひろたん自身の力だと思う。

 

廣田

ありがとうございます。この充実した1年間をご一緒させていただいたフローレンスの皆さんには、本当に感謝してもしきれません。

―8ヶ月間を共に戦ったこども宅食チームと

社会を変える挑戦へ

岡水

そんなこんな言いながらも、とうとうフローレンスを卒業となったわけですが、さて、これからどんなことをしていこうと考えているんですか?

 

廣田

やりたいことの軸としては、3つあります。まず、最初にも言ったように、未来の自分たち夫婦の課題を解決すること。それから、自分がやらなければ他に誰もやらないであろう事業をやること。そして、その取り組みを成長させて世の中を大きく変えられるポテンシャルがあるもの、です。

 

岡水

わあ、それは楽しみ!きっと、フローレンスでの経験も役に立ちそうですね。

 

廣田

間違いないですね。この1年がなければとんちんかんな試行錯誤を繰り返していたであろうところ、それらを一足飛びにできる学びができたと思っています。

フローレンスは本当に素晴らしい組織ですし、その歴史の1ページに関われたことは一生の誇りです。これからも、心はフローレンスファミリーとしてよろしくお願いします。本当にありがとうございました!

 

岡水

そんな風に言ってもらえると、いちフローレンススタッフとしてもとても嬉しいです! 新しいチャレンジ、がんばってくださいね!

 

廣田

ありがとうございます!ちなみに現在はひたすら、働くお母さん向けに仕事と子育ての両立に関するお悩みについてのヒアリングを何十回と繰り返しています。平日昼に職場近くにお邪魔して、ランチがてらお話を聞かせていただける方をこちらのフォームにて絶賛募集中です!

 

岡水

たくさん協力してくださる方が集まるといいね。フローレンスも、これからもひろたんのこと、ずっと応援しています。一緒に、未来の新しいあたりまえを作っていきましょう!

(了)


 

 正社員スタッフはもとより、パート、副業(複業)、学生インターン、そして廣田のような社会人インターンなど、フローレンスの社会問題を解決するための事業運営は、多様な働き手によって支えられています。

 自分が望むように、働くことができること。それは、フローレンスが病児保育をはじめた14年前も、現在2018年も、ずっと変わらず、とても大事で、社会にとっても価値があることです。アプローチは違えど、誰もが子育てと仕事を両立できる社会の実現のために、フローレンスも廣田も、これからも走り続けていきます。

 ぜひ暖かい応援を、よろしくお願いいたします!

 

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フローレンスという保育・子育て支援のNPOを退職しました

 

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